本稿には、2019年に実施された統計検定1級『医薬生物学』 問4の自作解答案を掲載しています。なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。
- 著作権の関係上、問題文は、掲載することができません。申し訳ありませんが、閲覧者のみなさまでご用意いただければ幸いです。
- この答案は、あくまでも筆者が自作したものであり、公式なものではありません。正式な答案については、公式問題集をご参照ください。
- 計算ミスや誤字・脱字などがありましたら、コメントなどでご指摘いただければ大変助かります。
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〔1〕Studentのt検定
Studentのt検定には、
- 各群のデータが正規分布から得られたものである
- 各群の母分散は、未知ではあるが等しい
- 各群のデータが互いに独立に得られたものである
〔2〕Wilcoxonの順位和検定の帰無仮説
Wilcoxonの順位和検定を適用する際の帰無仮説は、「2つの群の分布が等しい」となる。すなわち、薬剤 $A$ の測定値の分布関数を $F_1 \left(x\right)$、薬剤 $B$ の測定値の分布関数を $F_2 \left(x\right)$ とするとき、 \begin{align} H_0:F_1 \left(x\right)=F_2 \left(x\right) \end{align} $\blacksquare$
〔3〕Wilcoxonの順位和検定の検定統計量
Wilcoxonの順位和検定における検定統計量は、次のように求める。すなわち、$n_A+n_B=n$ 個のデータをすべて統合して、値が小さい順に並べ替え、値が小さい順に順位を割り振っていく。検定を実施する際は、いずれかの群の順位の和を検定統計量とする。
測定値を順位に変換した表は以下のようになるので、
群 | 測定値の順位 | 順位和 | ||
---|---|---|---|---|
薬剤A | $3$ | $4$ | $6$ | $13$ |
薬剤B | $1$ | $2$ | $5$ | $8$ |
薬剤 $A$ の順位和は、 \begin{align} W_A=3+4+6=13 \end{align} 薬剤 $B$ の順位和は、 \begin{align} W_B=1+2+5=8 \end{align} $\blacksquare$
〔4〕順位の組み合わせとその確率
検定統計量の取り得る値は、 \begin{align} 6 \le W \le 15 \end{align} 順位のすべての組み合わせは、6つの順位の中から3つを選ぶ場合の数なので、 \begin{align} {}_{6}C_3=\frac{6 \cdot 5 \cdot 4}{3 \cdot 2 \cdot 1}=20 \end{align} これが同様の確からしさで出現する。それぞれの値を取るときの順位の組み合わせは次のようになる。
順位和 | 順位の 組み合わせ | 確率 |
---|---|---|
$6$ | $ \left\{1,2,3\right\}$ | $\frac{1}{20}$ |
$7$ | $ \left\{1,2,4\right\}$ | $\frac{1}{20}$ |
$8$ | $ \left\{1,2,5\right\}, \left\{1,3,4\right\}$ | $\frac{2}{20}$ |
$9$ | $ \left\{1,2,6\right\}, \left\{1,3,5\right\}, \left\{2,3,4\right\}$ | $\frac{3}{20}$ |
$10$ | $ \left\{1,3,6\right\}, \left\{1,4,5\right\}, \left\{2,3,5\right\}$ | $\frac{3}{20}$ |
$11$ | $ \left\{1,4,6\right\}, \left\{2,3,6\right\}, \left\{2,4,5\right\}$ | $\frac{3}{20}$ |
$12$ | $ \left\{1,5,6\right\}, \left\{2,4,6\right\}, \left\{3,4,5\right\}$ | $\frac{3}{20}$ |
$13$ | $ \left\{2,5,6\right\}, \left\{3,4,6\right\}$ | $\frac{2}{20}$ |
$14$ | $ \left\{3,5,6\right\}$ | $\frac{1}{20}$ |
$15$ | $ \left\{4,5,6\right\}$ | $\frac{1}{20}$ |
〔5〕Wilcoxonの順位和検定に対する注意点
例えば、薬剤 $B$ の順位和 $W=8$ を用いるとすると、有意確率は、これ以上に極端な値を取る確率なので、$P \left(W \le 8\right)$ を求めればよい。これを求めると、 \begin{align} P \left(W \le 8\right)&=P \left(W=6\right)+P \left(W=7\right)+P \left(W=8\right)\\ &=\frac{1}{20}+\frac{1}{20}+\frac{2}{20}\\ &=\frac{1}{5} \end{align} 両側検定の場合はこれを2倍して、 \begin{align} p=\frac{2}{5}=0.4 \end{align} このデータに対して、有意水準5%(もしくはそれ以下)でWilcoxonの願位和検定を行う場合は $\mathrm{p}$ 値は最低でも \begin{align} p=P \left(W=6\right)\times2=0.1 \end{align} となり、検定が有意となることはない。 サンプルサイズが極端に小さい場合には、このような問題が生じる。 $\blacksquare$
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