行列とその演算

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【2022年12月3週】 【C000】数学 【C080】線形代数

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本稿では、行列とその演算を紹介しています。

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多項ベクトル

一般に、n 個の実数の組 (x1,x2,,xn) のことを、 n 次元空間の点、あるいは n 次元空間のベクトルと呼ぶ。またこれを、単純に n 項ベクトルとも呼ぶ。xi はこのべクトルのi 成分と呼ばれる。

x=(x1x2x3) のように 横に並べて書いたベクトルは横ベクトルまたは行ベクトル row vector と呼ばれ、 x=(x1x2x3) のように 縦に並べて書いたベクトルは縦ベクトル、または列ベクトル column vector と呼ばれる。

行列

(1)(2951034) のように 数を長方形状に配列したものを行列 matrix といい、配列された数をその行列の成分 matrix entry と呼ぶ。

行列においては、成分の横の並びを行 row といい、上から順に第1行、第2行、…という。

また、成分の縦の並びを列 columnといい、左から順に第1列、第2列、…という。

行列の第 i 行、第 j 列をそれぞれi 行ベクトルj 列ベクトルともいう。

行列の第 i 行と第 j 列の交差する位置にある成分を行列の (i,j) 成分という。

行列を1つの文字で表すときには、ふつう A,B, のような大文字を使う。たとえば、先ほどの行列(1)を A=(2951034) のように書く。

m 個の行と n 個の列をもつ行列を mn 列の行列、または、m×n 行列という。上の行列(1)は 2×3 行列である。

m×n 行列において、整数の組 (m,n)、あるいは記号 m×n をこの行列の型 order と呼ぶ。

2つの行列 A,B の型が同じで、対応する成分がそれぞれ等しいとき、これらの行列は等しいといい、 A=B のように書く。

行列の一般的記法

m×n 行列を一般的に表すためには、1つの文字、たとえば a に2重の添字をつけて、(i,j) 成分を aij と書き、 A=(a11a12a1na21a22a2nam1am2amn) のように書き表す。 簡単にこれを A=(aij)i=1,2,,mj=1,2,,n と略記する。

正方行列

型が n×n である行列、すなわち成分が正方形状に配列されている行列は n 次の正方行列 square matrix、または単に n 次の行列と呼ばれる。n をこの正方行列の次数という。

1×n 行列は n 項行ベクトルであり、m×1 行列は m 項列ベクトルと同じである。

n 次正方行列に対し、その (i,i) 成分を対角成分 といい、対角成分の和 tr(A)=i=1naii Aトレース trace という。

行列の加法・減法・実数倍

行列 A,B の和 A+BA,B の型が等しい場合にのみ定義される。すなわち、A,B が同じ型をもつとき、両者の (i,j) 成分 aij,bij の和 aij+bij(i,j) 成分とする行列を A+B と定義する。たとえば、 (a1a2a3)+(b1b2b3)=(a1+b1a2+b2a3+b3)(abcd)+(abcd)=(a+ab+bc+cd+d)

すべての成分が 0 である行列、すなわち (0000)(000000) のような行列は零行列 zero matrix と呼ばれる。 型が異なる零行列は行列としては等しくないが、混同のおそれがなければ、ふつう同じ文字 O で表す。

また、行列 A に対してその各成分の符号を変えた行列を A で表す。たとえば A=(2403)A=(2403)

平面や空間のベクトルのときと同様に、行列の加法についても次の法則が成り立つ。ただし、この法則で行列はすべて同じ型のものを表す。

【定理】
行列の加法
Matrix Addition

①交換法則 A+B=B+A ②結合法則 (A+B)+C=A+(B+C)A+O=AA+(A)=O

同じ型の行列 A,B に対して、A+(B)AB で表し、A から B を引いたと呼ぶ。ABB+X=A を満たす行列 X である。

次に、行列 A と実数 k に対して、A(i,j) 成分 aijkkaij(i,j) 成分とする行列を、AkkA と定義する。 さらにまた次の法則が成り立つ。

【定理】
行列の定数倍
Matrix Scalar Multiplication

(kl)A=k(lA)(k+l)A=kA+lAk(A+B)=kA+kB1A=A0A=OkO=O

行列の乗法

一般に、A=(aij)m×n 行列、B=(bjk)n×r 行列 A=(a11a1nam1amn)B=(b11a1rbn1anr) とする。 このとき、A の第 i 行ベクトルと B の第 k 列ベクトルとの積 (ai1ai2ain)(b1kb2kbnk)=ai1b1k+ai2b2k++ainbnk (i,k) 成分とする m×r 行列を AB の積 AB と定義する。

すなわち、m×n 行列 A=(aij)n×r 行列 B=(bjk) との積 AB は、 cik=j=1naijbjk (i,k) 成分とする m×r 行列 C=(cik) である。 行列の積 AB は、A の列の個数と B の行の個数とが等しい場合にのみ定義される。

一般に、Am×n 行列、Xn×1 行列(すなわち n 項列ベクトル)ならば、積 AX を作ることができる。その積は m×1 行列(すなわち m 項列ベクトル)であり、具体的には、 (a11a1nam1amn)(x1x2xn)=(y1y2ym)yi=j=1naijxj

A が正方行列ならば、積 AA も同じ次数の正方行列となる。これを A2 と書く。 同様にして、 A2A=A3A3A=A4 が定義される。 これらはすべて A と同じ次数の正方行列となる。

ある自然数 k に対して、 Ak=O となる正方行列 Aべき零行列 Ak=A となる正方行列 Aべき等行列という。

行列の乗法の性質①

行列の乗法においては次のような性質が成り立つ。

【定理】
行列の乗法の性質
Matrix Multiplication

①定数倍
行列 A,B の積 AB が定義されるとき、k を定数とすれば (kA)B=A(kB)=k(AB)

②分配法則
Am×n 行列、B,Cn×r 行列とするとき、 A(B+C)=AB+AC また、A,Bm×n 行列、Cn×r 行列とするとき、 (A+B)C=AC+BC が成り立つ。

③結合法則
A,B,C はそれぞれ行列で行列の積 ABBC が定義されるとする。このとき、行列 (AB)CA(BC) も定義され、 (AB)C=A(BC) が成り立つ。

行列の乗法の性質②

行列 E=(1001) を2次の単位行列 identity matrix という。

任意の2次正方行列 A と単位行列 E に対して AE=EA=A が成り立つ。 すなわち、単位行列 E は行列の乗法において数の 1 に相当する役割を果たす。

いっぽう、 AO=OA=O が成り立つ。 すなわち、零行列は数の乗法における 0 に相当する。

行列の乗法は、①交換法則が成り立たない、②零因子が存在するという2点において、数の乗法と著しく異なる。一般には AB=BA は成り立たない。 AB=BA が成り立つとき、行列 AB可換であるという。たとえば、単位行列 E は任意の行列 A と可換である。k を任意の定数とするとき、行列 kE=(k00k) も任意の行列と可換である。

また、行列の乗法においては、AO,BO であっても、AB=O となることがある。たとえば A=(1236)B=(2412) とすると、 AB=(1236)(2412)=(1221142232+6134+62)=(0000) このように、AO,BO のとき、AB=O を満たすような零行列でない行列 A,B零因子 zero divisor と呼ばれる。

行列の乗法においては、零因子が存在するので、 AB=OA=OorB=O あるいは、 AB=AC,AOB=C という法則は成り立たない。 一般に、n次(ただし2n)の行列の乗法では交換法則が成り立たず、零因子が存在する。

n 次の行列 A=(aij) において、aii(i=1,2,,n)対角成分 diagonal element という。対角成分以外の成分がすべて0であるような正方行列 A=(a11000a22000ann) 対角行列 diagonal matrix と呼ばれる。 とくにすべての対角成分が1である n 次の対角行列 En=(100010001) n 次の単位行列と呼ばれる。

なお、対角行列は対角成分のみを抜き出してきて、 diag(a11,a22,,ann) と書くこともある。

行列の転置

転置行列

A=(aij)m×n 行列とするとき、bji=aij とおき、bji(j,i) 成分とする n×m 行列 A=(bji) A転置行列 transposed matrix という。 転置行列は、 ATAtA などと表される。 簡単にいえば、A の転置行列 AT は、A の行と列とを入れかえた行列である。例えば、 A=(a11a12a1na21a22a2nam1am2amn)AT=(a11a21am1a12a22am2a1na2namn)

転置行列の性質

【定理】
転置行列の性質
Properties of Transposed Matrix

(AT)T=A(A+B)T=AT+BT(kA)T=kAT(AB)T=BTAT

対称行列・交代行列

転置行列が元の行列と等しい正方行列 A=AT 対称行列 symmetric matrix と呼ばれる。

AT=A を満たす正方行列は交代行列 alternating matrix と呼ばれる。

逆行列

An 次の正方行列、E を同じ次数の単位行列とする。もし AB=BA=E となるような、n 次の行列 B が存在するならば、 BA の逆行列といい、 B=A1 で表す。

2×2 行列 A=(abcd) に対して Δ=adbc とおくと、次のことが成り立つ。

Δ0ならば、A は逆行列をもち、 A1=1Δ(dbca)Δ=0ならば、A は逆行列をもたない。

一般に逆行列をもつn 次正方行列を正則行列 regular matrix、または、可逆行列 invertible matrix と呼ぶ。

行列の分割

分割と小行列

行列 A の各ブロックを行列とみなして A=(A11A12A21A22) と表す。 このように縦と横の区切り線で行列 A をいくつかのブロックに分けることを A分割という。また、分割で用いた各ブロックの行列 A11,A12,A21,A22A の小行列という。

分割行列の演算

行列 A,Bm×n 行列とし、それぞれ同じ形に分割する。 A=(A11A12A21A22)B=(B11B12B21B22)

このとき、和・差・スカラー倍は対応する小行列ごとに計算できる、すなわち A±B=(A11±B11A12±B12A21±B21A22±B22)kA=(kA11kA12kA21kA22) が成り立つ。 また、分割行列の転置行列は AT=(A11TA12TA21TA22T) となる。

分割行列の積は、Am×n 行列、Bn×l 行列とするとき、A の列の分け方と B の行の分け方が同じになるように A=(A11A12A21A22)B=(B11B12B21B22) と分割する。 このとき、積 AB は(A の行の分け方や B の列の分け方に無関係に)小行列をあたかも成分のように扱って計算できる。すなわち AB=(A11A12A21A22)(B11B12B21B22)=(A11B11+A12B21A11B12+A12B22A21B11+A22B21A21B12+A22B22) が成り立つ。

ベクトルへの分割

A=(aij)m×n 行列とする。A の各列ベクトルを a1=(a11a21am1)a2=(a12a22am2)an=(a1na2namn) とおくとき、 A の分割 A=(a1a2an) A の列ベクトル分割という。 また、A の行ベクトルをそれぞれ a1=(a11a12a1n)a2=(a21a22a2n)am=(am1am2amn) とおくとき、 A の分割 A=(a1a2am) A の行ベクトル分割という。

m×n 行列 A の行ベクトル分割と n×l 行列 B の列ベクトル分割に対して、次の等式が成り立つ。

【定理】
ベクトル分割の性質

AB=(a1a2am)B=(a1Ba2BamB)AB=A(b1b2bl)=(Ab1Ab2Abl)AB=(a1a2am)(b1b2bl)=(a1b1a1b2a1bla2b1a2b2a2blamb1amb2ambl)

参考文献

  • 村上 正康, 佐藤 恒雄, 野澤 宗平, 稲葉 尚志 共著. 教養の線形代数. 培風館, 2016, p.1-16
  • 松坂 和夫 著. 数学読本 5. 新装版, 岩波書店, 2019, p.1101-1123
  • 馬場 敬之 著. 線形代数キャンパス・ゼミ. 改訂8, マセマ出版社, 2020, p.28-43

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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