ジョン・ラチン(2020)『医薬データのための統計解析』 問題9.1 解答例

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【2022年12月2週】 【A000】生物統計学 【A100】生存時間分析 【A101】生存関数の推定

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本稿は、ジョン・ラチン(2020)『医薬データのための統計解析』の「9.1」の自作解答例です。生存関数のパラメトリックモデル①:指数モデルに関する問題です。

なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。

  • スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
  • 曝露(発症)状況を表す右下の添え字は、「0」である場合(n0,π0 など)や「2」である場合(n2,π2 など)がありますが、どちらも「非曝露群(コントロール群)」を表しています。
  • 漸近的な性質を用いる際は、①中心極限定理が成り立つ、②漸近分散を推定する際に、母数をその一致推定量で置き換えることができるということが成り立つと仮定しています。
  • デルタ法を用いる際、剰余項(2次の項)が漸近的に無視できる(0に確率収束する)と仮定しています。
  • 上述の参考書では、標準正規分布の上側 100α% 点を Z1α と表記していますが、本サイトでは、Zα としています。そのため、参考書に載っている式の形式と異なる部分があります。
  • 著作権の関係上、問題文は、掲載しておりません。上述の参考書をお持ちの方は、お手元にご用意してご覧ください。
  • この解答例は、筆者が自作したものであり、公式なものではありません。あくまでも参考としてご覧いただければ幸いです。

問題9.1.1:パラメータの最尤推定量と漸近分散―打ち切りがない場合

イベント時間の確率密度関数 f(t)=λ(t)S(t) は、 f(t)=λeλt 打ち切りが存在しないとき、尤度関数は、 L(λ)=i=1Nλeλti 対数尤度関数 l(θ,x)=logL(θ,x) は、 l(λ)=i=1N(logλλti)=Nlogλλi=1Nti パラメータ λ に関するスコア関数 U(λ)=λl(λ) は、 U(λ)=Nλi=1Nti 尤度方程式 U(θ)=0 を解くと、パラメータ λ の最尤推定量は、 Nλ^=i=1Ntiλ^=Ni=1Nti 観測情報量 i(θ)=θU(θ) は、 i(λ)=(Nλ2)=Nλ2 期待情報量 I(θ)=E[i(θ)] は、 I(λ)=E[Nλ2]=Nλ2 したがって、パラメータ λ の最尤推定量の漸近分散 V(θ^)=1I(θ^)V(λ^)=λ2N

問題9.1.2:パラメータの最尤推定量と漸近分散―打ち切りがある場合

イベント時間の尤度は、 L(λ)=i=1N[f(ti)]δi[S(ti)]1δi イベント時間の確率密度関数、ハザード関数、生存関数の関係 f(t)=λ(t)S(t) より、 L(λ)=i=1N[λ(ti)S(ti)]δi[S(ti)]1δi=i=1N[λ(ti)]δiS(ti)=i=1Nλδieλti 対数尤度関数 l(θ,x)=logL(θ,x) は、 l(λ)=i=1N(δilogλλti)=logλi=1Nδiλi=1Nti=dlogλλi=1Nti イベント時間と打ち切りの時間の関係は、 i=1Nti=i=1dti+i=d+1Nti+ よって、 l(λ)=dlogλλ(i=1dti+i=d+1Nti+) パラメータ λ に関するスコア関数 U(λ)=θl(λ) は、 U(λ)=dλ(i=1dti+i=d+1Nti+) 尤度方程式 U(θ)=0 を解くと、パラメータ λ の最尤推定量は、 dλ^=(i=1dti+i=d+1Nti+)λ^=di=1dti+i=d+1Nti+ 観測情報量 i(θ)=θU(θ) は、 i(λ)=(dλ2)=dλ2 期待情報量 I(θ)=E[i(θ)] は、E(d)=NE(δ) より、 I(λ)=E[dλ2]=E(d)λ2=NE(δ)λ2 したがって、パラメータ λ の最尤推定量の漸近分散 V(θ^)=1I(θ^)V(λ^)=λ2NE(δ) 最尤推定量の漸近的性質より、 λ^N[λ,λ2E(d)]

問題9.1.3:対数生存関数の漸近分布

ここで、 g(λ)=logS(t)=λtg(λ^)=logS^(t)=λ^t と変数変換する。 デルタ法を用いて、g(λ^) を期待値 E(λ^)=λ まわりでテイラー展開すると、g(λ^) の1階微分は、 g(λ^)=t よって、デルタ法における期待値と分散の公式より、 E{g(λ^)}E[g(λ)]=λt V[g(λ^)]{g(λ)}2V(λ^)=(t)2λ2E(d)=(λt)2E(d) したがって、スラツキーの定理より、 logS^(t)dN[λt,(λt)2E(d)] [別解]この変数変換の場合は、単純な線形変換なので、線形変換の性質より、 E(λ^t)=tE(λ^)=λt V(λ^t)=(t)2V(λ^)=(λt)2E(d) したがって、 logS^(t)dN[λt,(λt)2E(d)]

問題9.1.4:生存関数の漸近分布

ここで、 g(λ)=S(t)=eλtg(λ^)=S^(t)=eλ^t と変数変換する。 デルタ法を用いて、g(λ^) を期待値 E(λ^)=λ まわりでテイラー展開すると、g(λ^) の1階微分は、 g(λ^)=teλt よって、デルタ法における期待値と分散の公式より、 E{g(λ^)}E[g(λ)]=eλt V[g(λ^)]{g(λ)}2V(λ^)=(teλt)2λ2E(d)=e2λt(λt)2E(d) したがって、スラツキーの定理より、 S^(t)dN[eλt,e2λt(λt)2E(d)]

問題9.1.5:イベントの期待確率―管理打ち切りを考慮する場合

各被験者の観察期間を Ui=TSrj とすると、 UiU[TSTR,TS] ここで、i 番目の被験者でイベントが観察されない確率は、登録時点の決定とイベントの発生が独立であることから、 登録時間が ri となる確率
×
観察期間 Ui=TSri 中にイベントが観察されない確率
P(Ri=ri,δi=0)=P(Ri=ri)S(u)=1TReλu したがって、P(δ=0) は周辺確率の定義 f(x)=P(X=x)=y=f(x,y)dy より、 P(δ=0)=TSTRTS1TReλudu=1TR[1λeλu]TSTRTS=eλ(TSTR)eλTSλTRP(δ=1)=1P(δ=0)=1eλ(TSTR)eλTSλTR 離散型確率変数の期待値の定義式 E(X)=x=xf(x) より、 E(δ|λ)=0P(δ=0)+1P(δ=1)=1eλ(TSTR)eλTSλTR

問題9.1.6:イベントの期待確率―管理打ち切り・ランダム打ち切りを考慮する場合

同様に、打ち切りもイベントも発生しない確率は、登録時点の決定とイベントの発生、打ち切りの発生が独立であることから、 P(Ri=ri,δi=0,γi=0)=P(Ri=ri)S(u)Σ(u)=1TReλueηu=1TRe(λ+η)u P(δi=0,γi=0) は周辺確率の定義 f(x)=P(X=x)=y=f(x,y)dy より、 P(δ=0,γ=0)=TSTRTS1TRe(λ+η)udu=1TR[1λ+ηe(λ+η)u]TSTRTS=e(λ+η)(TSTR)e(λ+η)TS(λ+η)TR したがって、観察期間中、打ち切りかイベントのいずれかが発生する(予定されている研究終了時点よりも前に観察が終わる)確率は、 P(δ=1,γ=0)+P(δ=0,γ=1)=1P(δ=0,γ=0)=1e(λ+η)(TSTR)e(λ+η)TS(λ+η)TR このうち、打ち切りが起こる確率とイベントが観察される確率は、全体のハザード(観察を終わせる要因)のうち、それぞれが占める割合となるので、 P(δ=1)=E(δ|λ,η)=λλ+η[1e(λ+η)(TSTR)e(λ+η)TS(λ+η)TR]P(γ=1)=E(γ|λ,η)=ηλ+η[1e(λ+η)(TSTR)e(λ+η)TS(λ+η)TR]

問題9.1.7:2つの群の生存関数の関係

生存関数の定義式を変形すると、 Si(t)=eλitλi=logSi(t)t これをハザードの比例定数の式 θ=λ1λ2 に代入すると、 θlogS2(t)t=logS1(t)tθlogS2(t)=logS1(t) 両辺の指数を取ると、 S1(t)=[S2(t)]θ

問題9.1.8:2つの群の生存時間の関係

t1α,t2α をハザードの比例定数の式 θ=λ1λ2 に代入すると、 θlogS2(t2α)t2α=logS1(t1α)t1αθlogαt2α=logαt1αt1αt2α=1θ

参考文献

  • ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.554-556
  • ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.522-523

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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