固有値と固有ベクトル

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【2022年12月3週】 【C000】数学 【C080】線形代数

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本稿では、固有値と固有ベクトルを紹介しています。

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固有値と固有ベクトルの定義

固有値と固有ヘクトル

$n$ 次正方行列 $\boldsymbol{A}= \left(a_{ij}\right)$ に対して \begin{gather} \boldsymbol{Ax}=\lambda\boldsymbol{x} \quad \boldsymbol{x} \neq \boldsymbol{0} \end{gather} を満たす ベクトル $\boldsymbol{x}$ とスカラー $\lambda$ が存在するとき、$\lambda$ を $\boldsymbol{A}$ の固有値 eigenvalue、$\boldsymbol{x}$ を固有値 $\lambda$ に対する $\boldsymbol{A}$ の固有ベクトル eigenvector という。

固有方程式

行列 $\boldsymbol{A}$ が与えられたとき、その固有値と固有ベクトルを求める方法について考える。上式を書き直すと \begin{gather} \left(\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{E}\right)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \end{gather} となる。

これを $\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{E}$ を係数行列とする同次連立1次方程式とみると、固有ベクトル $\boldsymbol{x}$ とはこの方程式の非自明な解のことに他ならない。ところが、同次連立1次方程式が非自明な解をもつための必要十分条件は、係数行列が正則でないこと、すなわち \begin{gather} \left|\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{E}\right|=0\tag{1} \end{gather} が成り立つことである。 そこで、まずこの式を満たす $\lambda$ を求める。すると、求めた $\lambda$ に対しては、同次連立1次方程式 \begin{gather} \left(\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{E}\right)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \end{gather} は必ず非自明な解をもつことになる。以上のプロセスにより、固有値と固有ベクトルが求まる。

このとき、式 $(1)$ を $\boldsymbol{A}$ の固有方程式という。固有方程式の解が固有値である。

成分を用いて書くと \begin{gather} \left|\begin{matrix}a_{11}-\lambda&a_{12}& \cdots &a_{1n}\\a_{21}&a_{22}-\lambda& \cdots &a_{2n}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&a_{m2}& \cdots &a_{mn}-\lambda\\\end{matrix}\right|=0 \end{gather} となる。

左辺は $\lambda$ に関する $n$ 次多項式である。この多項式を $\boldsymbol{A}$ の固有多項式 characteristic polynomial といい \begin{gather} f_A \left(\lambda\right)= \left|\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{E}\right|= \left|\begin{matrix}a_{11}-\lambda&a_{12}& \cdots &a_{1n}\\a_{21}&a_{22}-\lambda& \cdots &a_{2n}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&a_{m2}& \cdots &a_{mn}-\lambda\\\end{matrix}\right| \end{gather} で表す。

固有値の重複度

代数学の基本定理により、固有方程式は(重解は重複して数えることにすると、複素数の範囲ではつねに)ちょうど $n$ 個の解をもつ。いま、固有方程式の異なる解を $\lambda_1,\lambda_2, \cdots ,\lambda_r$ とすれば、 \begin{gather} f_A \left(\lambda\right)= \left(-1\right)^n \left(\lambda-\lambda_1\right)^{n_2} \left(\lambda-\lambda_2\right)^{n_2} \cdots \left(\lambda-\lambda_r\right)^{n_r}\\ n_1+n_2+ \cdots +n_r=n \end{gather} と表される。 このとき、$n_i$ を固有値 $\lambda_i$ の重複度という。したがって、$n$ 次正方行列 $\boldsymbol{A}$ の固有値は重複度まで込めるとちょうど $n$ 個ある。

固有空間

$\lambda$ を $n$ 次正方行列 $\boldsymbol{A}$ の固有値とするとき、集合 \begin{gather} W_\lambda= \left\{\boldsymbol{x}\middle|\boldsymbol{Ax}=\lambda\boldsymbol{x}\right\} \end{gather} を固有値 $\lambda$ に対する $\boldsymbol{A}$ の固有空間 eigenspace という。

行列の対角化

行列の相似

2つの $n$ 次正方行列 $\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}$ に対し、$n$ 次正則行列 $\boldsymbol{P}$ によって、 \begin{gather} \boldsymbol{B}=\boldsymbol{P}^{-1}\boldsymbol{AP} \end{gather} と表すことができるとき、行列 $\boldsymbol{A}$ と行列 $\boldsymbol{B}$ と相似である similar という。

\begin{gather} \boldsymbol{B}\longmapsto\boldsymbol{P}^{-1}\boldsymbol{AP} \end{gather} は $\boldsymbol{P}$ を変換行列とする相似変換 similarity transformation と呼ばれる。

正方行列 $\boldsymbol{A}$ が対角行列と相似なとき、$\boldsymbol{A}$ は対角化可能である diagonalizable という。

対角化の必要十分条件

【定理】
対角化の必要十分条件
Necessary and Sufficient Conditions for Diagonalizibility

$n$ 次正方行列 $\boldsymbol{A}$ の異なる固有値を \begin{gather} \lambda_1,\lambda_2, \cdots ,\lambda_r \end{gather} その重複度をそれぞれ \begin{gather} n_1+n_2+ \cdots +n_r=n \end{gather} とする。 このとき、$\boldsymbol{A}$ が適当な正則行列 $\boldsymbol{P}$ で対角化可能である、すなわち \begin{gather} \boldsymbol{P}^{-1}\boldsymbol{AP}= \left(\begin{matrix}\lambda_1\boldsymbol{E}_{n_1}&0& \cdots &0\\0&\lambda_2\boldsymbol{E}_{n_2}& \cdots &0\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&0& \cdots &\lambda_r\boldsymbol{E}_{n_r}\\\end{matrix}\right) \end{gather} であるための必要十分条件は \begin{gather} \mathrm{dim}W_{\lambda_i}=n_i \end{gather} が成り立つことである。

実対称行列の対角化

実対称行列の固有値

【定理】
実対称行列の固有値
Eigenvalue of Symmetric Matrix

実対称行列の固有値はすべて実数である。さらに、固有空間の基底もすべて実ベクトルにとれる。

この定理により、実対称行列の固有値、固有ベクトルに関する議論はすべて実数の範囲で扱うことができる。

実対称行列の固有値

【定理】
実対称行列の固有ベクトルの直交性
Eigenvectors of real symmetric matrices are orthogonal

実対称行列の異なる固有値に対する固有ベクトルは、互いに直交する。

実対称行列の直交行列による対角化

【定理】
実対称行列の直交行列による対角化
Orthogonal Diagonalization of a Symmetric Matrix

任意の実対称行列 $\boldsymbol{A}$ は適当な直交行列 $\boldsymbol{P}$ で対角化可能である。

2次形式

$n$ 個の変数 $x_1,x_2, \cdots ,x_n$ に関する実係数の2次の同次式 \begin{align} f \left(x_1,x_2, \cdots ,x_n\right)&=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}{a_{ij}x_ix_j}\\ &=\sum_{i=1}^{n}{a_{ii}x_i^2}+\sum_{i \lt j}{2a_{ij}x_ix_j} \end{align} \begin{gather} a_{ij}=a_{ji}=\frac{a_{ij}+a_{ji}}{2} \end{gather} 2次形式 quadratic form という。 さらに \begin{gather} \boldsymbol{A}= \left(a_{ij}\right) \quad \boldsymbol{x}= \left(\begin{matrix}x_1\\x_2\\\vdots\\x_n\\\end{matrix}\right) \end{gather} とおくと、 $\boldsymbol{A}$ は $n$ 次実対称行列であり、 \begin{align} f \left(x_1,x_2, \cdots ,x_n\right)=\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax} \end{align} となる。 $\boldsymbol{A}$ を2次形式の行列という。

2次形式の標準形

$n$ 次実対称行列 $\boldsymbol{A}$ は適当な直交行列 $\boldsymbol{P}$ によって \begin{gather} \boldsymbol{P}^{-1}\boldsymbol{AP}= \left(\begin{matrix}\lambda_1&0& \cdots &0\\0&\lambda_2& \cdots &0\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&0& \cdots &\lambda_r\\\end{matrix}\right) \end{gather} と対角化できる。

ここで、$\boldsymbol{P}$ は直交行列であるから $\boldsymbol{P}^{-1}=\boldsymbol{P}^T$ なので、 \begin{gather} \boldsymbol{P}^{-1}\boldsymbol{AP}=\boldsymbol{P}^T\boldsymbol{AP} \end{gather} このことを踏まえて、変数変換 \begin{gather} \boldsymbol{x}=\boldsymbol{Py} \quad \boldsymbol{y}= \left(\begin{matrix}y_1\\y_2\\\vdots\\y_n\\\end{matrix}\right) \end{gather} を行えば \begin{align} \boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}&= \left(\boldsymbol{Py}\right)^T\boldsymbol{APy}\\ &=\boldsymbol{y}^T \left(\boldsymbol{P}^T\boldsymbol{AP}\right)\boldsymbol{y}\\ &= \left(\begin{matrix}y_1&y_2& \cdots &y_n\\\end{matrix}\right) \left(\begin{matrix}\lambda_1&0& \cdots &0\\0&\lambda_2& \cdots &0\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&0& \cdots &\lambda_r\\\end{matrix}\right) \left(\begin{matrix}y_1\\y_2\\\vdots\\y_n\\\end{matrix}\right)\\ &=\lambda_1y_1^2+\lambda_2y_2^2+ \cdots +\lambda_ny_n^2 \end{align} となる。 よって、次の定理が成り立つ。

【定理】
2次形式の標準形
Diagonal Form

2次形式 $\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}$ は適当な直交行列 $\boldsymbol{P}$ による変数変換 $\boldsymbol{x}=\boldsymbol{Py}$ によって、 \begin{gather} \boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}=\lambda_1y_1^2+\lambda_2y_2^2+ \cdots +\lambda_ny_n^2 \end{gather} と表せる。 これを2次形式の標準形という。ここで、$\lambda_1,\lambda_2, \cdots ,\lambda_n$ は $\boldsymbol{A}$ の固有値である。

正値2次形式

2次形式与 $\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}$ が零ベクトル以外の $\boldsymbol{R}^n$ の任意のベクトル $\boldsymbol{x}$ に対して \begin{gather} 0 \lt \boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax} \end{gather} を満たすとき、 2次形式与 $\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}$ (または、行列 $\boldsymbol{A}$)は正定値である positive definite といい、 \begin{gather} 0 \le \boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax} \end{gather} のとき、 非負 nonnegative definite、あるいは半正定値 positive-semidefinite という。

2次形式の標準形を使えば $\boldsymbol{A}$ の固有値の正負を調べることで $\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}$ が正値か否か判定できる。

【定理】
固有値による正値性の判定
Eigenvalue and Positive Definiteness

2次形式 $\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}$ が正値であるための必要十分条件は $\boldsymbol{A}$ の固有値がすべて正となることである。

行列式によって正値性を判定する方法もある。

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【定理】
小行列式による正値性の判定
Eigenvalue and Positive Definiteness

$n$ 次実対称行列 $\boldsymbol{A}= \left(a_{ij}\right)$ に対して \begin{gather} \boldsymbol{A}_k= \left(\begin{matrix}a_{11}& \cdots &a_{1k}\\\vdots&\vdots&\vdots\\a_{k1}& \cdots &a_{kk}\\\end{matrix}\right) \quad k=1,2, \cdots ,n \end{gather} とおく。 このとき、$\boldsymbol{x}^T\boldsymbol{Ax}$ が正値であるための必要十分条件は \begin{gather} 0 \lt \left|\boldsymbol{A}_k\right| \quad k=1,2, \cdots ,n \end{gather} となることである。

参考文献

  • 村上 正康, 佐藤 恒雄, 野澤 宗平, 稲葉 尚志 共著. 教養の線形代数. 培風館, 2016, p.133-158
  • 馬場 敬之 著. 線形代数キャンパス・ゼミ. 改訂8, マセマ出版社, 2020, p.198-209

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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