本稿は、ジョン・ラチン(2020)『医薬データのための統計解析』の「問題5.2」の自作解答例です。大標本ケース・コントロール研究の分析に関する例題です。
なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。
- スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
- 曝露(発症)状況を表す右下の添え字は、「0」である場合($n_0,\pi_0$ など)や「2」である場合($n_2,\pi_2$ など)がありますが、どちらも「非曝露群(コントロール群)」を表しています。
- 著作権の関係上、問題文は、掲載しておりません。上述の参考書をお持ちの方は、お手元にご用意してご覧ください。
- この解答例は、筆者が自作したものであり、公式なものではありません。あくまでも参考としてご覧いただければ幸いです。
問題5.2.1:帰無仮説の設定
喫煙と心不全との因果関係を示すという文脈においては、以下の検定仮説を検定することになる。 \begin{gather} H_0:\mathrm{RR}=1 \quad H_1:\mathrm{RR} \neq 1 \end{gather} $\blacksquare$
問題5.2.2:前向き発症オッズ比の推定値と信頼区間
前向き発症オッズ比と後ろ向き曝露オッズ比の同等性より、前向き発症オッズ比の推定値は、 \begin{gather} \mathrm{\widehat{OR}}=\frac{120 \cdot 170}{80 \cdot 130}\cong1.962 \end{gather} 対数オッズ比の分散の公式より、$\theta=\log{\mathrm{\widehat{OR}}}$ として、 \begin{gather} V \left(\hat{\theta}\right)=\frac{120 \cdot 170}{80 \cdot 130}\cong0.034\\ \mathrm{S.E.} \left(\hat{\theta}\right)\cong0.185 \end{gather} $\theta$ に対する95%信頼区間は、 \begin{gather} {\hat{\theta}}_L=\log{1.962}-1.96 \cdot 0.185=0.310\\ {\hat{\theta}}_U=\log{1.962}+1.96 \cdot 0.185=1.037 \end{gather} $\mathrm{OR}$ に対する95%信頼区間は、 \begin{gather} {\mathrm{OR}}_L=e^{0.310}\cong1.364\\ {\mathrm{OR}}_U=e^{1.037}\cong2.822 \end{gather} $\blacksquare$
問題5.2.3:希少疾患の仮定の下での前向きリスク比の推定
問題文の条件より、真の有病率は、 \begin{gather} \delta=P \left(D\right)=1.0\times{10}^{-4} \end{gather} ケース群とコントロール群の曝露割合の推定値は、 \begin{gather} p_1=\frac{120}{200}=0.60\\ p_2=\frac{130}{300}\cong0.43 \end{gather} これらの値をもとに各セルの値を推定すると以下のようになる。
曝露あり $ \left(D\right)$ | 曝露なし $(\bar{D})$ | 合計 | |
---|---|---|---|
ケース群 $ \left(E\right)$ | $0.00006$ | $0.00004$ | $0.00010$ |
コントロール群 $(\bar{E})$ | $0.43329$ | $0.56661$ | $0.9999$ |
合計 | $0.43335$ | $0.56665$ | $1$ |
ここから、曝露群と非曝露群の発症割合を推定すると、 \begin{gather} {\hat{\pi}}_1=\frac{0.00006}{0.4334}=0.00014\\ {\hat{\pi}}_2=\frac{0.00004}{0.5667}\cong0.00007\\ \end{gather} したがって、前向き発症リスク比の推定値は、 \begin{gather} \mathrm{\widehat{RR}}\cong\frac{0.00014}{0.00007}=2.0 \end{gather} この値は、曝露オッズ比による推定に近い値である。 $\blacksquare$
問題5.2.4:母集団寄与リスクの推定と信頼区間
問題文の条件より、全体の曝露割合と非曝露割合はそれぞれ、 \begin{gather} \alpha_1=0.30 \quad \alpha_2=1-\alpha_1=0.7 \end{gather} 母集団寄与リスクの推定公式 $\mathrm{\widehat{PAR}}=\frac{\alpha_1 \left(\mathrm{\widehat{OR}}-1\right)}{\alpha_1\mathrm{\widehat{OR}}+\alpha_2}$ より、 \begin{align} \mathrm{\widehat{PAR}}&=\frac{0.3 \left(1.962-1\right)}{0.3 \cdot 1.962+0.7}\\ &=0.224 \end{align} ここで、$\theta=\log{\frac{\mathrm{\mathrm{}\widehat{PAR}\mathrm{}} }{1-\mathrm{\mathrm{}\widehat{PAR}\mathrm{}} }}$ とすると、分散の推定公式より、 \begin{align} \hat{V} \left(\theta\right)&= \left(\frac{\mathrm{\widehat{OR}}}{\mathrm{\widehat{OR}}-1}\right)^2 \cdot V \left(\log{\mathrm{\widehat{OR}}}\right)\\ &= \left(\frac{1.962}{1.962-1}\right)^2 \cdot 0.034\\ &\cong0.143\\ \mathrm{S.E.} \left(\hat{\theta}\right)&\cong0.378 \end{align} $\theta$ に対する95%信頼区間は、 \begin{gather} {\hat{\theta}}_L=\log{\frac{0.224}{1-0.224}}-1.96 \cdot 0.378=-1.985\\ {\hat{\theta}}_U=\log{\frac{0.224}{1-0.224}}+1.96 \cdot 0.378=-0.502 \end{gather} $\mathrm{PAR}$ に対する95%信頼区間は、 \begin{gather} {\mathrm{\mathrm{}PAR\mathrm{}}}_L=\frac{e^{-1.985}}{1+e^{-1.985}}=0.121\\ {\mathrm{\mathrm{}PAR\mathrm{}}}_U=\frac{e^{-0.502}}{1+e^{-0.502}}=0.377 \end{gather} $\blacksquare$
参考文献
- ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.257-258
- ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.215-221
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