本稿では、マッチングをしない横断研究やコホート研究について、発症リスク差に関する非劣性試験のサンプルサイズ設計の公式を導出しています。帰無仮説・対立仮説の下での分布の導出や共通の母比率の推定は、優越性試験の場合と同じであると思うと躓いてしまうので、基本に立ち返って考えていくことが重要です。
なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。
- スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
- 曝露(発症)状況を表す右下の添え字は、「0」である場合($n_0,\pi_0$ など)や「2」である場合($n_2,\pi_2$ など)がありますが、どちらも「非曝露群(コントロール群)」を表しています。
- 漸近的な性質を用いる際は、①中心極限定理が成り立つ、②漸近分散を推定する際に、母数をその一致推定量で置き換えることができるということが成り立つと仮定しています。
- 本稿では、検定にもとづくに考え方によるサンプルサイズ設計の公式を用いています。
【定理公式】発症リスク差に関する非劣性試験のサンプルサイズ設計の公式
【公式】
発症リスク差に関する非劣性試験のサンプルサイズ設計の公式
Sample Size Determination for for Non-inferiority Risk Difference Test
マッチングなしのコホート研究(積二項モデル)について、
各群のサンプルサイズを
\begin{gather}
n_1=n_0=N
\end{gather}
帰無仮説と対立仮説を
\begin{gather}
H_0:\pi_1-\pi_0=-\Delta \quad H_1:\pi_1-\pi_0 \gt \Delta
\end{gather}
とする。
曝露群と非曝露群の発症確率 \begin{gather} \pi_1 \quad \pi_0 \end{gather} を具体的定数として与え、 非劣性マージンを \begin{align} \Delta \end{align} 有意水準と検出力をそれぞれ、 \begin{align} \alpha \quad 1-\beta \end{align} とするとき、 \begin{gather} N= \left[\frac{Z_\alpha \cdot \sqrt{\bar{\pi} \left(1-\bar{\pi}\right)+ \left(\bar{\pi}-\Delta\right) \left(1-\bar{\pi}+\Delta\right)}-Z_{1-\beta} \cdot \sqrt{\pi_1 \left(1-\pi_1\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)}}{\pi_1-\pi_0+\Delta}\right]^2\\ \bar{\pi}=\frac{\pi_1+\pi_0+\Delta}{2} \end{gather}
導出
帰無仮説をいいかえると、 \begin{gather} H_0:\pi_1+\Delta=\pi_0=\pi \end{gather} 各群の発症確率の漸近分布は、 \begin{gather} {\hat{\pi}}_1\xrightarrow[]{d}\mathrm{N} \left[\pi_1,\frac{\pi_1 \left(1-\pi_1\right)}{N}\right]\\ {\hat{\pi}}_0\xrightarrow[]{d}\mathrm{N} \left[\pi_0,\frac{\pi_0 \left(1-\pi_0\right)}{N}\right] \end{gather} 正規分布の再生性より、標本発症リスク差の漸近分布は、対立仮説の下で \begin{align} \mathrm{\widehat{RD}}\xrightarrow[]{d}\mathrm{N} \left[\pi_1-\pi_0,\frac{\pi_1 \left(1-\pi_1\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)}{N}\right] \end{align} 帰無仮説の下で \begin{align} \mathrm{\widehat{RD}}\xrightarrow[]{d}\mathrm{N} \left[-\Delta,\frac{ \left(\pi_0-\Delta\right) \left(1-\pi_0+\Delta\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)}{N}\right] \end{align} 帰無仮説の下での共通の発症確率の推定値は、 \begin{align} \bar{\pi}=\pi_0=\frac{\pi_1+\pi_0+\Delta}{2} \end{align} したがって、検定統計量の分散について、 \begin{gather} \frac{\phi_0^2}{N}=\frac{ \left(\bar{\pi}-\Delta\right) \left(1-\bar{\pi}+\Delta\right)+\bar{\pi} \left(1-\bar{\pi}\right)}{N}\\ \phi_0^2= \left(\bar{\pi}-\Delta\right) \left(1-\bar{\pi}+\Delta\right)+\bar{\pi} \left(1-\bar{\pi}\right)\\ \phi_0=\sqrt{\bar{\pi} \left(1-\bar{\pi}\right)+ \left(\bar{\pi}-\Delta\right) \left(1-\bar{\pi}+\Delta\right)} \end{gather} \begin{gather} \frac{\phi_1^2}{N}=\frac{\pi_1 \left(1-\pi_1\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)}{N}\\ \phi_1^2=\pi_1 \left(1-\pi_1\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)\\ \phi_1=\sqrt{\pi_1 \left(1-\pi_1\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)} \end{gather} これを非劣性試験におけるサンプルサイズの設計公式に代入すると、 \begin{align} N= \left[\frac{Z_\alpha \cdot \sqrt{\bar{\pi} \left(1-\bar{\pi}\right)+ \left(\bar{\pi}-\Delta\right) \left(1-\bar{\pi}+\Delta\right)}-Z_{1-\beta} \cdot \sqrt{\pi_1 \left(1-\pi_1\right)+\pi_0 \left(1-\pi_0\right)}}{\pi_1-\pi_0+\Delta}\right]^2 \end{align} $\blacksquare$
参考文献
- 山口 拓洋 著. サンプルサイズの設計 後悔先に立たず. 健康医療評価研究機構, 2010, p.77
- 丹後 俊郎, 小西 貞則 編集. 医学統計学の事典 新装版. 朝倉書店, 2018, p.357
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