医学・疫学研究デザインの概要

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【2022年11月1週】 【A000】生物統計学 【A050】研究デザイン

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医学・疫学研究には、①治療や予防、②診断、③予後予測、④発症機序など、さまざまな研究テーマがありますが、研究を実施する際には、自身の研究テーマに応じて適切な研究デザインを選択することが重要です。本稿では、観察・介入、横断・前向き・後ろ向きなど医学・疫学研究デザインの大枠の種類について解説しています。

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研究方法の分類

医学・疫学研究には、①治療や予防、②診断、③予後予測、④発症機序など、さまざまなリサーチ・クエスチョンがあり、具体的な研究テーマとして、例えば、

  1. ある疾病の罹患状況の実態調査
  2. ある疾病の死亡率が高い地域における、原因を探るための疫学調査
  3. ある化学物質の毒性を評価するための用量比較の動物実験
  4. 2種類の治療法(薬剤)の効果を比較する臨床試験
  5. 放射線被爆の健康影響を検討するために行う、原子力発電所の従業員を対象とした大規模な追跡調査(縦断的調査)
  6. 大気汚染の健康影響を検討するために行う、化学工場近隣地域とそうでない地域における健康状況の調査

など、さまざまな種類があります。

こうした研究には、それぞれに応じた適切な研究方法があり、そして研究の種類が違うと、適切な統計法の選択も大きく変わってきます。こうした研究の分類には、介入の有無や研究の目的などの観点があります。

介入の有無(対象者に影響するかどうか)による区分

まず、介入の有無に着目すると、医学における研究は、大きく2つに区分することができます。それは、観察研究 observational study介入研究 interventional study です。

ここでいう「介入」とは、ある手術をする、薬を投与する、あるいは、あえてうるさい環境にいてもらう、有害物質が含まれた空気が充満した部屋にいてもらうなど、なんらかのアウトカムの原因となり得るリスクファクターに、人為的・強制的に曝露させることを指し、「介入」をして、そのリスクファクターの影響についてデータの収集や解釈を行う研究のことを介入研究、または実験といいます。

例えば、(1)動物実験 animal experiment、(2)臨床試験 clinical trial:動物実験でその効果がある程度確認された薬・新しい術式、健康増進プログラムなどの効果をヒトで検証する、(3)疫学的介入研究 intervention study:ヒトの健康にとって良い方向へ介入する(例:喫煙本数を減少させる、お酒の飲酒量を減少させる)などが介入研究にあたります。

いっぽう、観察研究は文字通り、ある現象を観察し、それを解釈、研究するものです。そのため観察研究では、対象者に対して、手術や薬の投与などの「介入」行為をすることはありません。観察研究は、調査 survey とも呼ばれます。

介入の有無(対象者に影響するかどうか)による区分
図1 介入の有無(対象者に影響するかどうか)による区分

研究の目的による区分

医学・疫学研究の目的には、(1)記述的、(2)探索的、(3)検証的 の3種類があります。

記述的 descriptive とは、疾患の分布や健康に関する集団の特徴をありのままに記述するということで、例えば、「肥満の状態にある人は、地域Aでは○○%、地域Bでは、××%、…」といった調査です。国勢調査、国民栄養調査、患者調査等などの多くは調査時点の集団の特徴を数量的に記述することが目的としています。

探索的 exploratory とは、疾病の原因についての仮説を立てるということで、例えば、「定期的な運動習慣がある人は、そうでない人よりも、肥満である確率が低いかを調べる」といったものです。原因のわからない疾患の危険因子を探したり、種々の毒性を動物実験などで検討する場合、可能性ある因子を多く設定し、それぞれの影響、効果を多面的に探索することが目的となります。

検証的 confirmatory とは、ある仮説が正しいかどうかを調べるということで、例えば、「地域に対して運動プログラムの指導をしたら、肥満が減るのかについて調べる」ということを意味します。新薬の効果を調べる臨床試験では、開発段階では探索的ですが、許認可へ向けた申請段階では検証的というように、目的に応じて、試験デザインが異なります。

これらの分類は、研究の段階に対応しているとも考えられます。つまり、一般的には、(1)問題点の把握(記述的研究)→(2)原因究明(探索的研究)→(3)解決策の検証(検証的研究)という流れで問題が解決されていくということです。

また、これらの段階と介入の有無との関係について、記述的・探索的の段階は、基本的に、「観察研究」、検証的の段階では、「介入研究」というスタイルが取られるという関係があります。

研究の目的による区分
図2 研究の目的による区分

観察研究の種類:横断研究と縦断研究

観察研究は、調査回数に応じてさらに、横断研究 cross-sectional study縦断研究 longitudinal study に分けることができます。

横断研究とは、ある一時点においてデータの収集をし、解析する研究をいいます。すなわち、調査は1回だけ行われる研究です。横断研究にはつぎのようなものがあります。

  • 健康診断のデータをもとにした20XX年度の公立中学生の平均体重
  • 20XX年〇〇月××日時点の、日本の30代男女の喫煙者の割合
  • 日本とアメリカにおける肥満者の割合の比較

横断研究は最も単純な研究方法で、街頭アンケート調査などがこのカテゴリーに入ります。ですから、横断研究では、「きのうはどうだったか?」とか、「明日はどうなるのだろうか?」などの過去や未来のことは一切調べないのが特徴です。

これに対し、縦断研究では、調査したいことを違う時点で複数回データ収集をします。この研究は、時間とともにある要因がどう変化するかを調べたいときに使われます。例えば、「禁煙プログラムに参加している30代の男女1000人を対象に、毎月、インタビューをして、禁煙が続けられているかを調べる調査」といった例が縦断研究の範疇に入ります。

横断研究と縦断研究
図3 横断研究と縦断研究

縦断研究の種類:データ収集の時期による区分

縦断研究は、測定のタイムフレームやデータを収集する時間の方向によって、さらに前向き研究 prospective study後ろ向き研究 retrospective study に分かれます。

前向き研究は、調査開始時点(現在)から将来に向かって経時的にデータを収集し、アウトカムが発生する様子を調べる研究で、(前向き)コホート研究が代表的な手法です。

いっぽう、後ろ向き研究は、調査時点から過去に遡ってデータを収集し、原因となる因子への曝露状況を調べる研究で、ケース・コントロール研究が代表的な手法です。

横断研究、コホート研究、ケース・コントロール研究については、別の記事でより詳細に説明します。

参考文献

  • 浅井 隆 著. いまさら誰にも聞けない医学統計の基礎のキソ 2. アトムス, 2010, p.3-18
  • スティーブン・ハリー, スティーブン・カミングス ほか 著, 木原 雅子, 木原 正博 訳. 医学的研究のデザイン. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014, p.4-5
  • 比江島 欣愼 著. ぜんぶ絵で見る医療統計. 羊土社, 2017, p.46-49
  • 丹後 俊郎, 松井 茂之 編集. 医学統計学ハンドブック. 朝倉書店, 2018, p.3-6
  • 中村 好一 著. 基礎から学ぶ楽しい疫学. 医学書院, 2020, p.48-49

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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