リサーチ・クエスチョンの整理と評価

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【2022年10月1週】 【A000】生物統計学 【A010】医学・疫学研究の目的

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EBMを実践するにあたり、関連するエビデンスがない場合、自身が研究を行い、エビデンスを確立する必要があります。学術研究は、計画から成果の発表まで多くのステップを踏む必要がありますが、その第1歩となるのが、リサーチ・クエスチョンの設定です。本稿では、リサーチ・クエスチョンの整理と評価の方法を解説しています。

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研究のモチベーション:エビデンスを作る・伝える

EBMを実践していると、しばしば十分なエビデンスが見つからない場面に遭遇します。そうした場合、「他の研究者が関連するエビデンスを作ってくれることを願う」という道もありますが、現実的には自分の関心に沿ったものを他者がたまたま作ってくれることはほとんど期待できません。そのため多くの場合、自分自身が研究を実施し、新たなエビデンスを作り出す必要があります。

2022年現在、医学・疫学の研究は、『人を対象とする生命科学・医学系研究』という概念で総称されており、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の定義$^\mathrm{(1)}$によれば、次のように定義されます。

人を対象として、次のア又はイを目的として実施される活動をいう。
ア 次の①、②、③又は④を通じて、国民の健康の保持増進又は患者の傷病からの回復若しくは生活の質の向上に資する知識を得ること
①傷病の成因(健康に関する様々な事象の頻度及び分布並びにそれらに影響を与える要因を含む。)の理解
②病態の理解
③傷病の予防方法の改善又は有効性の検証
④医療における診断方法及び治療方法の改善又は有効性の検証
イ 人由来の試料・情報を用いて、ヒトゲノム及び遺伝子の構造又は機能並びに遺伝子の変異又は発現に関する知識を得ること

この定義にもみられるように、医学・疫学研究は、人々の健康生活の質の向上に寄与することを最終的な目的とし、EBMに役立てられることを想定されています。

ただ、こうした点は何も目新しいことはありません。自身が研究を実施するということは、EBMを実践するうえで、今まではエビデンスを「使う」側であったのが、エビデンスを「作り」、そしてそれを論文としてまとめ、学会などで公表・発表することによって「伝えていく」側になるということを意味しているにすぎません。

医学・疫学研究がエビデンスになるまでの流れ

といっても、研究はそう簡単に実施できるものでもありません。研究を実施する究極的な目的は、その研究が「EBMを実践するうえでのエビデンス」になることです。エビデンスを「作り」、「伝え」、それが「エビデンス」として客観的に認められるためには、さまざまなハードルを越える必要があります。

医学・疫学研究が「エビデンス」となっていく流れを、非常に大雑把に分けると、①研究の計画・準備段階、②研究の実施(データの採取)段階、③データ分析と考察の段階、④研究結果のまとめ(論文化)と発表の段階、の4段階に分けることができます。これら4段階は、それぞれに注意点やポイントがあり、それぞれに奥深さがありますが、最も肝心なのが①研究の計画・準備段階です。

本稿では、以下で①研究の計画・準備段階の原点たる、リサーチ・クエスチョンの整理方法についてみていきたいと思います。

リサーチ・クエスチョンの整理方法

クリニカル・クエスチョンからリサーチ・クエスチョンへ

医学・疫学研究を始める際の第1歩は、リサーチ・クエスチョンを設定し、研究を行う意義や背景、目的を整理することです。いいかえれば、「『何のために、どのようなことを調べるのか』を整理し、それを言葉で表現する」という作業です。

実際に研究を実施するためには、研究プロトコルを作成する必要があります。研究プロトコル study protocol は、研究の実施計画書のことで、研究の目的や対象、評価方法、解析方法などを、実験を実施する前に決め、後は計画に沿って、研究を実施していくとことが、研究を行ううえでの事実上のルールとなっています。

「何を調べたいのか?」という点は、何もない状態からでは答えを出すことは難しいかもしれません。しかし、既に臨床上の疑問(クリニカル・クエスチョン)があり、それに答えを出すかたちでエビデンスを作る場合、クリニカル・クエスチョンを土台とし、それを洗練するかたちでリサーチ・クエスチョンを設定することができます。主なクリニカル・クエスチョンの対象には、①病気や診療の実態、②原因と結果の関連、③治療や予防指導の効果・有効性、④診断や評価の方法の性能、⑤予後予測・将来予測の5種類があります。

改めていえば、リサーチ・クエスチョン research question とは、研究者が研究から答えを得ようとする医学的問題を指します。リサーチ・クエスチョンは、最初は漠然としたものから始まることが多く、そこから次第に研究可能な具体的内容へと絞り込まれていきます。たとえば、あなたの周りで健康的な印象を受ける人の多くが魚をよく食べていたため、次のような疑問を持ったとしましよう。 人々はもっと魚を食べるべきか?

最初の問題設定としてはこれでも十分ですが、研究計画を立てるには、もう少しクエスチョンを具体化しなければなりません。「何をもって魚を食べるべきと結論づけられるのか?」、「魚を食べることによって得られるメリットは何なのか?」。そうした疑問に答えることができなければ、立てた命題に答えを出すことはできません。

そこでまず、それがいくつかの内容に分割できるかどうかを考えてみます。分割できる場合には、その中の重要なものについてプロトコルを作成します。この例では、次のように、いくつかのリサーチ・クエスチョンに分割することができます。

  • この国の人はどれほど頻繁に魚を食べるか?
  • 魚を食べることで、冠動脈疾患のリスクが低下するか?
  • 魚の摂取を増やすことで、高齢者において水銀中毒のリスクが高まるおそれはないか?
  • 魚油サプリの摂取は、冠動脈疾患に対して、魚の摂取と同じ効果があるか?

リサーチ・クエスチョンの定式化

PICOとPECO

リサーチ・クエスチョンを定式化する際には、クリニカル・クエスチョンを整理したときと同様、PICO・PECOのフレームを用いると分かりやすく整理することができます。これらは、後に説明する仮説検証型の研究に対し有効で、PICOは介入研究、PECOは観察研究の場合に用いられます。

「P」は、patients, participants, population、すなわち、対象者を表します。クリニカル・クエスチョンが生じた場であり、研究成果を還元する相手でもあります。

「I」は、介入 intervention で、治療や予防など対象者に研究として行う医療行為や保健指導の内容です。介入を伴わない観察研究の場合は、「E」、すなわち、曝露 Exposure となります。曝露は「喫煙」や「生牡蠣を食べた」など特定の状態にあることを指します。

「C」は、比較 comparison, control で、intervention と対をなす比較対象のことです。例えば、「保健指導を受けなかった人」、「非喫煙者」、「生牡蠣を食べなかった人」などです。薬剤の試験においては、偽薬 placebo や既存の標準薬となります。

最後の「O」は、結果 outcome で、死亡や疾病への罹患のように新たに発生する出来事 event、あるいは数値で表される検査値などを指します。

すなわち、「誰に」、「何をすると」、「誰と比べて」、「どうなるか」のかたちでリサーチ・クエスチョンを整理します。

PEMO

「疾患〇〇の患者において、何が予後を左右するのだろうか」というような、「何が」や「どのように」など 5W1H で答える疑問は、「PICO」で表現することが難しくなります(IとCが対立概念であるため、どうしても介入要因があるかないかの二元論になってしまう)。このような場合、PEMOのかたちの表現が提案されています$^\mathrm{(2)}$。

「P」「E」「O」はPECOと同じですが、「M」は、態様 mode で用量反応関係などを表します。

つまり、「誰に」、「何が」、「どれくらいあると」、「どうなるか」のかたちに整理します。

臨床的アウトカムの設定

リサーチ・クエスチョンを構成する要素のうち、「O」、すなわちアウトカムの部分は、患者の利害を直接的に表現しています。アウトカムは、臨床的アウトカムと生物学的アウトカムに分けられます。

臨床的アウトカム clinical outcome とは、医療やケアの結果もたらされる最終的な(健康)状態のことであり、患者や家族が最も関心をもつ医療の質の指標です。厳密に区別されることもありますが、アウトカムはエンドポイント endpoint と呼ばれることもあります。

代表的なアウトカムには、①死亡 death、②疾患 disease、③不快感 discomfort、④機能障害 disability、⑤不満足 dissatisfaction、⑥貧困 destitution、あるいは医療費 dispense の6つがあり、すべて「D」ではじまるので、「6Ds」と呼ばれています。このうち、①死亡や②疾患への罹患など、客観的に測定されるアウトカムハード・アウトカム hard outcome、③不快感や⑤不満足など主観的なアウトカムソフト・アウトカム soft outcome と呼びます。

神経症候、機能障害、あるいは生活の質(QOL)の程度などのソフト・アウトカムは、客観的な測定が難しいため、しばしば代用的アウトカムが測定されることがあります。代用的アウトカム surrogate outcome とは、例えば、主観的なストレス状態を客観的に把握するために、唾液中のストレスホルモンを測定するというように、直接的な測定が難しい指標の代用として測定されるアウトカムや指標のことです。こうした生理学的な検査指標は、ソフト・アウトカムと比べて測定しやすいため、多くの臨床研究で用いられています。

臨床的アウトカムに対して、生物学的アウトカムというものもあります。生物学的アウトカム biological outcome とは、医療やケアの結果もたらされる状態の中で臨床的にはそれほど重要ではないもののことを指します。たとえば、急性心筋梗塞の死亡率は高く、急性期死亡の多くは発症後の致死的不整脈によって起こり、発症後24時間以内に最も多く発生します。理論的には、不整脈を薬物治療で抑えられれば、死亡も防げるはずなので、不整脈を防止する薬を投与し、死亡率が減少するかを検証します。その結果、「たしかにその薬には不整脈の防止効果があるが、必ずしも死亡率を改善しない」ことが明らかになりました。この点、患者にとって最も重要なアウトカムは「自分が死亡するかどうか」であり、薬が「不整脈の発生頻度」を低くしても、不整脈の防止が死亡率の減少につながらないのであれば、患者にとって重要なことではないということになります。このような場合、「不整脈の発生頻度」は単なる「生物学的アウトカム」に過ぎず、「臨床的アウトカム」ではないということになります。

こうしたことがあるので、リサーチ・クエスチョンを設定する際は、真に患者の利益を代弁し、客観的に把握しやすいアウトカムや指標が理想的であるとされています。Shaughnessyらは、「その医療ケアによって、患者がより長く、より健康で、より生産的で、そして症状に苦しむことのない生活を送ること」を示すエビデンスを、“patient-oriented evidencethat matters”の頭文字をとって“POEMs”と称し、「エビデンスであること」だけではなく、「患者にとって意味のあるエビデンスであること」の重要性を強調しています$^\mathrm{(3)}$。そのため、代用的アウトカムを用いて曝露・介入効果を測定しようとする際には、注意が必要となります。クレアチニンと腎不全の関係のように、代替指標と臨床的アウトカムとの間の関係が十分に立証されている場合は問題ありませんが、そうでない場合は、結果の解釈を慎重に行う必要があります。

検証可能性

後に説明する「実施可能性」とも関連しますが、優れたリサーチ・クエスチョンとするためには、検証可能なかたちで表現されていなければなりません。次の単純な記述的クエスチョンを取り上げてみましょう。
冠動脈疾患の患者の中で、魚油サプリを毎日摂取する人々の存在率はどれくらいか?

額面通りに捉えるならば、この問いに完璧に正確な答えを得ることは現実的には不可能です。なぜなら、世の中の冠動脈疾患患者を全員調査すること自体が不可能であり、また、魚油サプリを摂取しているかどうかを完全に正確に調べることも不可能だからです。そこで研究者は、リサーチ・クエスチョンを以下のように、もともとのリサーチ・クエスチョンと関連があり、かつ現実的に測定可能なものに変換することになります。
自分の勤めるクリニックを訪れる、冠動脈疾患の既往があり、かつ郵送質問票に回答する患者の中で、魚油サプリを毎日摂取する人々の割合はどれくらいか?

主要な仮説と副次的な仮説

研究では、複数のリサーチ・クエスチョンが同時に検討されることが多く、介人研究でも、複数のアウトカムが設定されることが少なくありません。たとえば、「脂肪摂取の減少は、乳がんのリスクを低下させる」、「脂肪摂取の減少は、冠動脈疾患のリスクを低下させる」という仮説を、同時に検証するというような場合です。コホート研究やケース・コントロール研究でも、1つのアウトカムに対していくつかのリスクファクターが検討されるのが普通です。このように、1つの研究で複数のリサーチ・クエスチョンが検討されるのは・研究の効率を高めることが目的ですが、それによって、研究のデザインやその実施が複雑化するという問題や、多仮説検定(検定の多重性)という統計学上の問題が生じてしまいます。これらの問題に対処するには、最も重要なリサーチ・クエスチョン primary endpoint を明確にして、それを中心にして研究計画を立て、サンプルサイズの推定を行う必要があります。その上で、重要と思われる副次的なリサーチ・クエスチョン secondary endpoint を付け加えるようにします。

研究の機能・目的:探索的研究と検証的研究

医学・疫学研究のリサーチ・クエスチョンは、先に挙げたような5種類のうちどれかに分類されますが、こうしたリサーチ・クエスチョンにもとづいた研究はその目的によって、探索的研究と検証的研究に分けることができます。

探索的研究 exploratory research とは、解決すべき問題の正確な性質を明らかにするための予備調査、調査研究を指します。①病気や診療の実態に関する研究がその典型で、記述的研究 descriptive study と呼ばれることもあり、具体的な研究デザインには、横断研究という手法があります。通常、次に紹介する検証的研究の第1段階として実施され、疾患の分布や健康に関する集団の特徴をありのままに記述し、より有効なエビデンスとなり得る仮説の設定に役立てます。たとえば、以下のようなリサーチ・クエスチョンに関する研究がそれに該当します。 冠動脈疾患の既往のある人は、1週聞に平均何回魚を食べているか?

探索的研究の次には、検証的研究が行われます。検証的研究 confirmatory research とは、文字通り、仮説を検証するために行われる研究です。②原因と結果の関連に関する研究がその典型で、分析的研究 analytic study と呼ばれることもあり、コホート研究やケース・コントロール研究という手法で実施されます。たとえば、以下のようなリサーチ・クエスチョンに関する研究がそれに該当します。
魚をよく食べる冠動脈疾患既往者における心筋梗塞再発リスクは、魚をよく食べない冠動脈疾患既往者よりも低いか?

ここまでの研究でも、その知見を疾病の予防に役立てることはできますが、より積極的な治療法を考える場合、最終段階として、以下のような介入効果(因果関係)の有無を明らかにするために、臨床試験 clinical trial が行われることもあります。 魚油サプリの投与によって、冠動脈疾患患者の死亡率が減少するか? これは、③治療や予防指導の効果・有効性に関する研究に該当します。介入研究は、実施が比較的難しくかつ費用がかかり、しかも観察的研究のエビデンスによって十分絞り込まれたリサーチ・クエスチョンが対象となるため、比較的後の段階で実施されるのが普通です。

リサーチ・クエスチョンから研究仮説へ

比較を伴う検証的研究を行う場合、リサーチ・クエスチョンを更に洗練し、研究仮説に変換する必要があります。研究仮説 hypothesis とは、リサーチ・クエスチョンを、対象者、予測因子、アウトカムなど、研究の主な要素を盛り込み、比較可能なかたちで表現したものです。

こうした変換は、記述的な研究には必要ありません。例えば、次のようなリサーチ・クエスチョンを考えます。 患者は診察にたっぷり時間を割いてくれる医師のことをどう思うか? このような研究の場合、記述的な研究デザインとなり、例えば、「非常に良い」、「良い」、「中立」、「悪い」、「非常に悪い」の5段階の回答について、「『非常に良い』は○○%、『良い』は□□%、…」というような回答の分布を得ることができます。

こうした結果にはそれなりの意義があります。しかし、このような研究からは「では、時間を長くとった方が良いのか?それとも別にそんな必要はないのか?」といったことに直接的に答えることはできず、医療実践の改善には繋げづらくなります。

診療時間の長短による患者の満足度を比較する場合、たとえば、「患者は、診察に十分な時間を割いてくれる医師についてどう思うか」というリサーチ・クエスチョンを「診察時間の長短で、患者満足度が異なるか」というかたちに変換すると、満足度の高低を用いた比較が可能になります。このような「比較」を目的とする場合、リサーチ・クエスチョンに以下のような表現を盛り込みます。
~よりも大きい(多い)、~よりも小さい(少ない)、~よりも~しやすい、関連がある、~に比べ、関係がある、~と同じ、~と相関する、原因である、~を生じる。

良い研究仮説の条件

研究仮説の良し悪しは、リサーチ・クエスチョンの良し悪しで決まります。良い仮説であるためには、簡潔で的確なものである必要があります。

簡潔

簡潔な仮説は、次のように、1つの予測因子と1つのアウトカムからなります。
Ⅱ型糖尿病患者において、運動不足は蛋白尿のリスクを高める。 複雑な仮説では、次のように、予測因子が複数含まれることがあります。
Ⅱ型糖尿病患者において、運動不足とアルコールの摂取は蛋白尿のリスクを高める。 あるいは、次のようにアウトカムが複数含まれることもあります。
Ⅱ型糖尿病患者において、アルコールの摂取は高蛋白尿と神経障害のリスクを高める。 こうした複雑な仮説は、1回の統計学検定でその真偽を判定することはできません。このような複雑な仮説は、内容を複数の簡潔な仮説に分けて、別々に評価することになります。しかし、ときには、以下のように、いくつかをまとめて1つの予測因子あるいはアウトカムとして扱うことがあります。
Ⅱ型糖尿病患者において、アルコールの摂取は微小血管障害(蛋白尿、神経障害、網膜障害)のリスクを高める。 この例では、研究者は、特定の合併症ではなく、合併症の有無をアウトカムとしていることになります。それぞれのアウトカムが稀である場合、このように、一定水準以上の複数の重要な出来事を一括してアウトカムとすることがあります。これを複合アウトカム composite outcome と呼びます。

的確

的確な仮説 specific hypothesis とは、対象者、測定する変数、用いる統計学的検定が明確に表現されている仮説のことです。そうした仮説では、たとえば次の例のように、どのような研究対象者に対して、どのような変数を測定しようとしているのかが簡潔に定義されます。
過去1年の間に心筋梗塞の診断でA病院に入院した患者では、同じ期間に肺炎で入院した患者(コントロール群)に比べ、少なくとも6週間三環系うつ薬を処方されたことのある患者の割合が大きい。

少し長目ですが、研究の性格がはっきりと伝わり、データ解析のときに本来のリサーチ・クエスチョンからずれた仮説を検定してしまう間違いを防ぐことができます。こうした仮説を立てておきながら、分析の段階ではそれとは違う変数(例:自己申告による抗うつ薬の服用)を使って検定が行われることがありますが、その場合には、多仮説検定(多重検定)の問題を考慮しなければなりません。研究仮説を簡潔にするために、通常、こうした細かいことは、研究計画の中に書き込むことになりますが、研究者はこうした問題を常に明確に認識しておく必要があります。

リサーチ・クエスチョンの評価:FINER の基準

以上のようにリサーチ・クエスチョンを設定したら、次は、リサーチ・クエスチョンを評価します。評価が必要となるのは、思っていた研究が実施できない、あるいは実施しても最終的にエビデンスとして認められない場合があるからです。

「研究が実施できない」というのは、例えば、「この研究を実施するためには、数億円の予算が必要になるが、そんな資金は確保できない」、「手っ取り早く結論を得るためには、人体実験が必要だが、それは社会的に許されない」という場合です。

「エビデンスとして認められない」というのは、例えば、「同じような研究が既にあった」、「ある病気は1月生まれの方が2月生まれよりも多いことが分かったが、実用上の価値が認められなかった」といった理由で論文の掲載を断られるというような場合です。

こうした事態を避けるために、リサーチ・クエスチョンには5つの備えるべき条件があります。それは、実施可能性 feasible、科学的興味深さ interesting、新規性 novel、倫理性 ethical、必要性 relevant で、その頭文字を取って、FINERと呼ばれています$^\mathrm{(i)}$。最後に、それぞれの基準を少し詳しく見ていきます。

実施可能性

Fは実施可能性 Feasible、すなわち確保できるサンプルサイズ、研究者の経験、時間、研究費、評価の範囲などから臨床研究が実現可能かどうかです。これは自分自身で新たな研究を計画する際には必ず検討しなければなりません。

サンプルサイズ

必要なサンプルサイズが確保できなかったために、研究が失敗に終わる例は少なくありません。そうならないためには、研究に必要なサンプルサイズをひとまず見積もる必要があります。同時に、実際に研究に確保できそうな対象者の数と、その中で、適格基準を満たさない人、参加を拒否する人、フオローアップの途中で脱落しそうな人の数を見積もってみます。いくら注意深く計算しても、見積もりは甘くなりがちなため、必要な研究参加者数が本当に確保できるかどうかをよく確認しなければなりません。

必要な専門性

研究者は、研究デザイン、対象者のサンプリング方法、変数(予測因子やアウトカム)の測定方法、得られたデータの処理や解析方法などについて、必要な専門性(技術、必要設備、経験など)を備えていなければなりません。新しい方法や技術を開発するには時間もかかり、また、しばらくはデータも不安定であるため、すでに確立され、しかも自分が使い慣れた方法を用いる方が安全です。どうしても新しい方法(例:新しいバイオマーカーの測定)が必要な場合には、その方法を開発できるだけの専門性を獲得しなければなりません。

コスト(時間と経費)

研究費を見積もる際には、実際の研究にかかる経費は、最初の見積もりを上回ることが多いことを念頭におく必要があります。コストがかかりすぎると思われるときは、もっと低コストで済む研究デザインに切り換えるか、新たな研究費をどこかで獲得するしかありません。コストの問題は、早目に把握しておくべきで、そうすれば膨大な無駄を出す前に、研究の変更や中止を決断することができます。

評価項目の絞り込み

欲張ってリサーチ・クエスチョンを立てすぎると、対象者の数、測定項目や回数などが多くなりすぎて、研究が複雑で困難になってしまうおそれがあります。そういう場合には、枝葉を切り落として、最も重要と思われるリサーチ・クエスチョンに絞り込むようにします。興味のあるリサーチ・クエスチョンの諦めには決断を要しますが、その見返りに、重要なリサーチ・クエスチョンについて、より確実な研究結果が得られるようになります。

研究費獲得の可能性

自己資金や所属研究施設の資金だけで研究費を賄える研究者は、それほど多くありません。多くの対象者をリクルートし、追跡する必要があり、また、測定に費用がかかる研究の場合は特にそうです。研究資金がなければ、いくらデザインが完璧でも実施することはできません。

科学的興味深さ

Iは科学的興味深さ Interesting、すなわち、その領域の同僚、研究者たちにとって興味深いものであるかどうかです。研究を行う動機には、たとえば、研究費を得やすい、昇進するために必要、真理の追求という意味で興味深い、などさまざまなものがありますが、最後の動機こそが最も重要です。なぜなら、そのような動機で行われる研究にこそ自然な発展性があり、さまざまな困難に遭遇しても、それを強い意志で乗り越えることができるからです。ただ、最終的にエビデンスとして確立されるためには、同僚や専門家コミュニティに受け入れられる必要があるので、研究プロトコルを書く前に、同僚や外部の専門家などの助言を受けるのが賢明です。

新規性

Nは新規性 Novel 、すなわち既に確立されている事実の単純な繰り返しでないかです。

優れた研究とは、新たな知見を加える研究です。既に知られていることを、そっくりそのまま繰り返す(まねる)だけの研究は、ただの徒労にすぎず、研究費の助成を受けられる見込みもありません。その研究に新規性があるかどうかは、文献の徹底した検索や、その領域の研究に詳しい専門家への相談などを通して知ることができます。

しかし、リサーチ・クエスチョンは、完全に新しいものでなくてはならない(過去に1件でも類似の研究があればダメ)というわけではなく、以前の研究結果の再現性を検討する研究、ある集団で得られた結果が他の集団でも成り立つかどうかを調べる研究、新しい測定法の導入によって、既知のリスクフアクターとある疾患の関係がより明確になるかどうかを検討する研究も考えられます。再現性を確認する研究は、過去の研究の方法上の問題を改善して行われる場合や異なる結果が出る可能性がある場合には、特に意義のあるものとなります。

倫理性

Eは倫理性 Ethical 、すなわち、人権に対する適切な配慮がなされているかです。ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則であるヘルシンキ宣言の遵守はもちろん、多くの国や地域がそれぞれの倫理指針を公表しています。臨床研究の結果を投稿する際には、通常は投稿時に倫理的な事項についても問われます。

必要性

最後のRは必要性 Relevant、すなわち、その研究が診療現場の決断に役立ったり、診療ガイドラインを改訂したり、医学的知識を深めたり、今後の臨床研究を導いたりするような必要性、重要性があるかという点です。研究費の助成を行う機関の多くは、申請された研究の意義、つまり、リサーチ・クエスチョンの重要性、研究によって期待される科学的知識の進歩、その研究によってもたらされる可能性のある、概念、方法、臨床上の進歩を特に重視します。

参考文献

  • スティーブン・ハリー, スティーブン・カミングス ほか 著, 木原 雅子, 木原 正博 訳. 医学的研究のデザイン:研究の質を高める疫学的アプローチ. 第4版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014, p.1-25
  • 福原 俊一 著. リサーチ・クエスチョンの作り方:診療上の疑問を研究可能な形に. 第3版, 健康医療評価研究機構, 2015, 146p.
  • 神田 善伸 著. みんなのEBMと臨床研究:ゼロから始めて一冊でわかる!. 南江堂, 2016, p.1-12, p.97-101
  • ロバート・フレッチャー, スザンヌ・フレッチャー, グラント・フレッチャー 著, 福井 次矢 訳. 臨床疫学:EBM実践のための必須知識. 第3版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2016, 287p.
  • 川村 孝 著. 臨床研究の教科書:研究デザインとデータ処理のポイント. 第2版, 医学書院, 2020, p.10-15
  • 森 悦朗. EBMと医療統計: 1.臨床研究のすすめ. 分子脳血管病. 2002, 1, p.91-95.
  • 森 悦朗. EBMと医療統計: 2.研究方法の質. 分子脳血管病. 2002, 1, p.205-210.
  • 中山 健夫. Evidence-Based Medicine(EBM): 疑問点の抽出から文献検索まで. 小児科診療. 2009, 72(4), p.613-619.
  • 関本 美穂. 臨床研究と臨床疫学. 診断と治療. 2015, 103(12), p.1631-1635.
  • 田中 亮. 高齢者を対象にした理学療法研究における研究デザインと統計解析の選択. 理学療法の臨床と研究. 2022, 31, p.11-19, doi: 10.14870/jptpr.31.11

引用文献

  1. 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針. 文部科学省、厚生労働省、経済産業省, 2021, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html.
  2. 川村 孝 著. 臨床研究の教科書:研究デザインとデータ処理のポイント. 第2版, 医学書院, 2020, p.12
  3. Shaughnessy, A.F. & Slawson, D.C.. POEMs: patient-oriented evidence that matters. Ann Intern Med. 1997, 126(8), p.667, doi: 10.7326/0003-4819-126-8-199704150-00032
  4. 福原 俊一 著. リサーチ・クエスチョンの作り方:診療上の疑問を研究可能な形に. 第3版, 健康医療評価研究機構, 2015, 146p.

脚注

  1. 近年は、これに「measurable(測定可能であること)」、「structured(構造化されていること)」、「specific(明確に絞りこまれていること)」の3項目を追加して、拡張した“FIRMNESS基準”が提案されています$^\mathrm{(4)}$。

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