本稿では、診断検査の性能評価の研究デザインについて、その分割表の形式、統計モデル、診断検査の性能に関する指標の定義をまとめています。
なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。
- スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
- 曝露(発症)状況を表す右下の添え字は、「0」である場合($n_0,\pi_0$ など)や「2」である場合($n_2,\pi_2$ など)がありますが、どちらも「非曝露群(コントロール群)」を表しています。
分割表の形式
有病者と非有病者の観察対象人数をそれぞれ、 \begin{gather} n_1 \quad n_0\\ N=n_1+n_0 \end{gather} 陽性者と陰性者の人数をそれぞれ、 \begin{gather} m_1 \quad m_0\\ N=m_1+m_0 \end{gather} 有病者群と非有病者群の陽性者数をそれぞれ、 \begin{gather} a \quad b \end{gather} 有病者群と非有病者群の陰性者数をそれぞれ、 \begin{gather} c \quad d \end{gather} とする。
陽性 $ \left(+\right)$ | 陰性 $(-)$ | 合計 | |
---|---|---|---|
疾病あり $ \left(D\right)$ | $a$ | $c$ | $n_1$ |
疾病なし $(\bar{D})$ | $b$ | $d$ | $n_0$ |
合計 | $m_1$ | $m_0$ | $N$ |
統計モデル
積二項モデル(感度・特異度を考える場合)
考え方
感度・特異度を調べる場合、まず診断のゴールド・スタンダートを適用し、参加者を発症群と非発症群に分け、その後、問題としている検査を適用する。このとき、発症群の行き先は、「疾病あり・陽性」か「疾病あり・陰性」のどちらか、非発症群の行き先は、「疾病なし・陽性」か「疾病なし・陰性」のどちらかしかないので、それぞれが互いに独立な二項分布に従うと考えられる。
発症群と非発症群の陽性人数 $a,b$ が互いに独立に、 試行回数がそれぞれ \begin{align} n_1 \quad n_0 \end{align} 母比率(陽性確率)がそれぞれ \begin{align} \pi_1=P \left(D\middle| E\right) \quad \pi_0=P \left(D\middle|\bar{E}\right) \end{align} である 二項分布 \begin{align} a \sim \mathrm{B} \left(n_1,\pi_1\right) \quad b \sim \mathrm{B} \left(n_0,\pi_0\right) \end{align} に従うとする。
陽性 $ \left(+\right)$ | 陰性 $(-)$ | 合計 | |
---|---|---|---|
疾病あり $ \left(D\right)$ | $\pi_1$ | $1-\pi_1$ | $1$ |
疾病なし $(\bar{D})$ | $\pi_0$ | $1-\pi_0$ | $1$ |
積二項尤度
\begin{align} L \left(\boldsymbol{\pi}\right)={}_{n_1}C_a\pi_1^a \left(1-\pi_1\right)^{n_1-a} \cdot {}_{n_0}C_b\pi_0^b \left(1-\pi_0\right)^{n_0-b} \end{align}
四項分布モデル(陽性的中度・陰性的中度を考える場合)
考え方
陽性的中度・陰性的中度を調べる場合、参加者全員に問題としている検査を適用し、その後、診断のゴールド・スタンダートを適用して発症状況を調べる。このとき、検査を適用された時点では、それぞれの参加者の行き先は、「疾病あり・陽性」、「疾病あり・陰性」、「疾病なし・陽性」、「疾病なし・陰性」の4通りすべてが可能性としてあり得る。したがって、四項分布に従うと考えられる。
各セルの観測値 \begin{align} \boldsymbol{n}= \left(\begin{matrix}a\\b\\c\\d\\\end{matrix}\right) \end{align} が四項分布
\begin{gather} \boldsymbol{\pi} \sim \mathrm{MN} \left(N,\boldsymbol{\pi}\right)\\ \boldsymbol{\pi}= \left(\begin{matrix}\pi_{11}\\\pi_{12}\\\pi_{21}\\\pi_{22}\\\end{matrix}\right) \end{gather} に従うとする。
陽性 $ \left(+\right)$ | 陰性 $(-)$ | 合計 | |
---|---|---|---|
疾病あり $ \left(D\right)$ | $\pi_{11}$ | $\pi_{12}$ | $\pi_D$ |
疾病なし $(\bar{D})$ | $\pi_{21}$ | $\pi_{22}$ | $\pi_{\bar{D}}$ |
合計 | $\pi_+$ | $\pi_-$ | $1$ |
四項尤度
\begin{align} L \left(\boldsymbol{\pi}\right)=\frac{N!}{a!b!c!d!}\pi_{11}^a\pi_{12}^b\pi_{21}^c\pi_{22}^d \end{align}
診断検査の性能に関する指標
感度
\begin{gather} \mathrm{Sen}=\frac{\pi_{11}}{\pi_D}=1-\mathrm{FN}\\ \mathrm{\widehat{Sen}}=\frac{a}{n_1}=1-\mathrm{\widehat{FN}} \end{gather}
特異度
\begin{gather} \mathrm{Spe}=\frac{\pi_{22}}{\pi_{\bar{D}}}=1-\mathrm{FP}\\ \mathrm{\widehat{Spe}}=\frac{d}{n_0}=1-\mathrm{\widehat{FP}} \end{gather}
陽性的中度
\begin{gather} \mathrm{PPV}=\frac{\pi_{11}}{\pi_+}\\ \mathrm{\widehat{PPV}}=\frac{a}{m_1} \end{gather}
陰性的中度
\begin{gather} \mathrm{NPV}=\frac{\pi_{22}}{\pi_-}\\ \mathrm{\widehat{NPV}}=\frac{d}{m_0} \end{gather}
偽陽性率
\begin{gather} \mathrm{FP}=\frac{\pi_{21}}{\pi_{\bar{D}}}=1-\mathrm{Spe}\\ \mathrm{\widehat{FP}}=\frac{b}{n_0}=1-\mathrm{\widehat{Spe}} \end{gather}
偽陰性率
\begin{gather} \mathrm{FN}=\frac{\pi_{12}}{\pi_D}=1-\mathrm{Sen}\\ \mathrm{\widehat{FN}}=\frac{c}{n_1}=1-\mathrm{\widehat{Sen}} \end{gather}
陽性尤度比
\begin{gather} \mathrm{PLR}=\frac{\frac{\pi_{11}}{\pi_D}}{\frac{\pi_{21}}{\pi_{\bar{D}}}}=\frac{\mathrm{Sen}}{1-\mathrm{Spe}}\\ \mathrm{\widehat{PLR}}=\frac{\frac{a}{n_1}}{\frac{b}{n_0}}=\frac{\mathrm{\widehat{Sen}}}{1-\mathrm{\widehat{Spe}}} \end{gather}
陰性尤度比
\begin{gather} \mathrm{NLR}=\frac{\frac{\pi_{12}}{\pi_D}}{\frac{\pi_{22}}{\pi_{\bar{D}}}}=\frac{\mathrm{Spe}}{1-\mathrm{Sen}}\\ \mathrm{\widehat{NLR}}=\frac{\frac{c}{n_1}}{\frac{d}{n_0}}=\frac{\mathrm{\widehat{Spe}}}{1-\mathrm{\widehat{Sen}}} \end{gather}
有病率
\begin{gather} \mathrm{P}=\pi_D\\ \mathrm{\hat{P}}=\frac{n_1}{N} \end{gather}
正診率
\begin{gather} \mathrm{A}=\pi_{11}+\pi_{22}\\ \mathrm{\hat{A}}=\frac{a+d}{N} \end{gather}
参考文献
- スティーブン・ハリー, スティーブン・カミングス ほか 著, 木原 雅子, 木原 正博 訳. 医学的研究のデザイン:研究の質を高める疫学的アプローチ. 第4版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014, p.205
- 丹後 俊郎, 松井 茂之 編集. 医学統計学ハンドブック. 朝倉書店, 2018, p.657
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