本稿は、ジョン・ラチン(2020)『医薬データのための統計解析』の「問題3.1」の自作解答例です。問題3.1 床的有意差・有意水準・検出力の関係式に関する問題です。
なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。
- スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
- 曝露(発症)状況を表す右下の添え字は、「0」である場合($n_0,\pi_0$ など)や「2」である場合($n_2,\pi_2$ など)がありますが、どちらも「非曝露群(コントロール群)」を表しています。
- 上述の参考書では、標準正規分布の上側 $100\alpha\%$ 点を $Z_{1-\alpha}$ と表記していますが、本サイトでは、$Z_\alpha$ としています。そのため、参考書に載っている式の形式と異なる部分があります。
- 著作権の関係上、問題文は、掲載しておりません。上述の参考書をお持ちの方は、お手元にご用意してご覧ください。
- この解答例は、筆者が自作したものであり、公式なものではありません。あくまでも参考としてご覧いただければ幸いです。
問題3.1:有意水準・検出力・臨床的に有意な差の関係
〔I〕右側検定仮説
\begin{gather}
H_0:\mu=\mu_0 \quad \mathrm{vs} \quad H_1:\mu=\mu_1 \left( \gt \mu_0\right)
\end{gather}
について、
〔1〕帰無仮説での有意水準と棄却域
仮定より、帰無仮説のもとで、
\begin{gather}
T \sim \mathrm{N} \left(\mu_0,\sigma_0^2\right)
\end{gather}
これを標準化した値は、
\begin{align}
\frac{T-\mu_0}{\sigma_0}=Z_0 \sim \mathrm{N} \left(0,1\right)
\end{align}
したがって、帰無仮説における検定統計量の棄却域は、
\begin{gather}
Z_\alpha \le \frac{T-\mu_0}{\sigma_0}\\
\mu_0+Z_\alpha \cdot \sigma_0 \le T
\end{gather}
〔2〕対立仮説での棄却域と検出力
同様に、対立仮説のもとで、
\begin{gather}
T \sim \mathrm{N} \left(\mu_1,\sigma_1^2\right)
\end{gather}
これを標準化した値は、
\begin{align}
\frac{T-\mu_1}{\sigma_1}=Z_1 \sim \mathrm{N} \left(0,1\right)
\end{align}
検出力の定義(対立仮説が正しいときに、帰無仮説を棄却する事象が起こる)より、
\begin{align}
1-\beta&=P \left(\mu_0+Z_\alpha \cdot \sigma_0 \le T\middle| H_1\right)\\
&=P \left(\mu_0-\mu_1+Z_\alpha \cdot \sigma_0 \le T-\mu_1\middle| H_1\right)\\
&=P \left\{\frac{ \left(\mu_0-\mu_1\right)+Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1} \le \frac{T-\mu_1}{\sigma_1}\middle| H_1\right\}\\
&=P \left\{\frac{ \left(\mu_0-\mu_1\right)+Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1} \le Z_1\middle| H_1\right\}\\
&=P \left(Z_{1-\beta} \le Z_1\right)
\end{align}
したがって、
\begin{align}
Z_{1-\beta}=\frac{ \left(\mu_0-\mu_1\right)+Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1}
\end{align}
臨床的に有意な差を $\Delta=\mu_1-\mu_0 \gt 0$ とすると、
\begin{gather}
Z_{1-\beta}=\frac{-\Delta+Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1}\\
Z_{1-\beta} \cdot \sigma_1=-\Delta+Z_\alpha \cdot \sigma_0\\
\Delta=Z_\alpha \cdot \sigma_0-Z_{1-\beta} \cdot \sigma_1
\end{gather}
〔II〕左側検定仮説
\begin{gather}
H_0:\mu=\mu_0 \quad \mathrm{vs} \quad H_1:\mu=\mu_1 \left( \lt \mu_0\right)
\end{gather}
について、
同様に、帰無仮説における検定統計量の棄却域は、
\begin{gather}
\frac{T-\mu_0}{\sigma_0} \le -Z_\alpha\\
T \le \mu_0-Z_\alpha \cdot \sigma_0
\end{gather}
検出力の定義より、
\begin{align}
\beta&=P \left(T \le \mu_0-Z_\alpha \cdot \sigma_0\middle| H_1\right)\\
&=P \left(T-\mu_1 \le \mu_0-\mu_1-Z_\alpha \cdot \sigma_0\middle| H_1\right)\\
&=P \left\{\frac{T-\mu_1}{\sigma_1} \le \frac{ \left(\mu_0-\mu_1\right)-Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1}\middle| H_1\right\}\\
&=P \left\{Z_1 \le \frac{ \left(\mu_0-\mu_1\right)-Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1}\middle| H_1\right\}\\
&=P \left(Z_1 \le Z_\beta\right)
\end{align}
したがって、臨床的に有意な差を $\Delta=\mu_1-\mu_0 \lt 0$ とすると、
\begin{gather}
Z_\beta=\frac{ \left(\mu_0-\mu_1\right)-Z_\alpha \cdot \sigma_0}{\sigma_1}\\
Z_\beta \cdot \sigma_1=-\Delta-Z_\alpha \cdot \sigma_0\\
\Delta=-Z_\alpha \cdot \sigma_0-Z_\beta \cdot \sigma_1
\end{gather}
標準正規分布の対称性 $Z_\beta=-Z_{1-\beta}$ より、
\begin{align}
\Delta&=-Z_\alpha \cdot \sigma_0+Z_{1-\beta} \cdot \sigma_1\\
&=- \left(Z_\alpha \cdot \sigma_0-Z_{1-\beta} \cdot \sigma_1\right)
\end{align}
〔I〕〔II〕の結果をまとめると、
\begin{align}
\left|\Delta\right|=Z_\alpha \cdot \sigma_0-Z_{1-\beta} \cdot \sigma_1
\end{align}
$\blacksquare$
参考文献
- ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.122
- ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.91-94
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