曝露オッズ比による発症リスク比の近似

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【2022年10月2週】 【A000】生物統計学 【A020】尺度と測定 【A051】コホート研究 【A052】ケース・コントロール研究

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本稿では、希少疾患の仮定の下で、発症リスク比が曝露オッズ比で近似できることを証明しています。この関係は、ケース・コントロール研究の妥当性を保証するものとして非常に重要な基本事項です。

なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。

  • スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
  • 曝露(発症)状況を表す右下の添え字は、「0」である場合(n0,π0 など)や「2」である場合(n2,π2 など)がありますが、どちらも「非曝露群(コントロール群)」を表しています。

発症リスク比と曝露リスク比の関係

ケース・コントロール研究における、後ろ向き曝露リスク比は定義より、 RRRetro=ϕ1ϕ0 いっぽう、関心のある前向き発症リスク比の定義式は、 RRPro=P(D|E)P(D|E¯)=π1π0ϕ1ϕ0=P(E|D)P(E|D¯)=RRRetro したがって、基本的に、後ろ向き曝露リスク比を用いて前向き発症リスク比を評価することはできない。

【定理】曝露オッズ比による発症リスク比の近似

【定理】
曝露オッズ比による発症リスク比の近似
Retrospective Odds Ratio Approximate the Risk Ratio under Rare Event Assumption

マッチングなしのケース・コントロール研究において、全体の有病割合 δ が分かっているとき、前向き発症リスク比の母数とその一致推定量は、 RR=ϕ11ϕ1δ(1ϕ1)+(1δ)(1ϕ0)δϕ1+(1δ)ϕ0RR^=ϕ^11ϕ^1δ(1ϕ^1)+(1δ)(1ϕ^0)δϕ^1+(1δ)ϕ^0 で与えられる。 特に、希少疾患の仮定 δ0 の下では、 前向き発症リスク比は、後ろ向き曝露オッズ比で近似できる、すなわち、 limδ0RR=ORRetro が成り立つ。

証明

証明

全体の有病割合 δ を用いて得られた分割表を書き直すと、以下のようになる。

表1 ケース・コントロール研究に関する 2×2 分割表(統計モデル)
曝露あり
(E)
曝露なし
(E¯)
合計
ケース群
(D)
δϕ1 δ(1ϕ1) δ
コントロール群
(D¯)
(1δ)ϕ0 (1δ)(1ϕ0) 1δ
合計 δϕ1
+
(1δ)ϕ0
δ(1ϕ1)
+
(1δ)(1ϕ0)
1

このデータがマッチングなしのコホート研究で得られたものであると仮定すると、曝露群と非曝露群の発症確率はそれぞれ π1=(1δ)ϕ0δϕ1+(1δ)ϕ0π0=δ(1ϕ1)δ(1ϕ1)+(1δ)(1ϕ0) 前向き発症リスク比の定義式 RR=π1π0 より、 RR=δϕ1δϕ1+(1δ)ϕ0δ(1ϕ1)+(1δ)(1ϕ0)δ(1ϕ1)=ϕ11ϕ1δ(1ϕ1)+(1δ)(1ϕ0)δϕ1+(1δ)ϕ0 この一致推定量は、 RR^=ϕ^11ϕ^1δ(1ϕ^1)+(1δ)(1ϕ^0)δϕ^1+(1δ)ϕ^0

多くの場合、全体の有病割合が事前には分からず、通常ケース・コントロール研究からは直接推定することができないため、このアプローチはほとんど実用的ではないが、希少疾患の仮定(δ0)の下では、 limδ0RR=limδ0ϕ11ϕ1δ(1ϕ1)+(1δ)(1ϕ0)δϕ1+(1δ)ϕ0=ϕ11ϕ11ϕ0ϕ0=ORRetro

参考文献

  • ジョン・ラチン 著, 宮岡 悦良 監訳, 遠藤 輝, 黒沢 健, 下川 朝有, 寒水 孝司 訳. 医薬データのための統計解析. 共立出版, 2020, p.218-219
  • Cornfield, J.A.. A method of estimating comparative rates from clinical data; applications to cancer of the lung, breast, and cervix. Journal of the National Cancer Institute. 1951, 11(6), p.1269-1275, PMID: 14861651

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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