本稿では、負の二項分布の定義と概要についてまとめています。確率関数であることの証明、確率関数の導出、幾何分布と負の二項分布の関係の証明、期待値・分散、確率母関数、モーメント母関数、再生性の紹介が含まれます。
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負の二項分布
定義・意味
成功確率が $p$ のベルヌーイ試行を繰り返すとき、 $n$ 回成功するまでに要した失敗回数 $X$ が従う離散型確率分布を負の二項分布 negative binomial distribution と呼ぶ。
確率関数
確率関数 $f(x)$ は、 \begin{gather} f \left(x\right)= \left\{\begin{matrix}{}_{n+x-1}C_xp^n \left(1-p\right)^x&x=0,1,2, \cdots \\0&\mathrm{other}\\\end{matrix}\right. \end{gather} で与えられる。
略記法
また、負の二項分布は、 \begin{align} \mathrm{NB} \left(n,p\right) \end{align} と略記されることがある。
確率関数であることの証明
(i)すべての $x$ に関して、$P \left(x\right) \geq 0$
確率の基本性質より、
\begin{align}
0 \le p \le 1\Rightarrow0 \le 1-p
\end{align}
二項係数の性質より、
\begin{align}
{}_{n+x-1}C_x \geq 0
\end{align}
したがって、
\begin{align}
f \left(x\right)={}_{n+x-1}C_xp^n \left(1-p\right)^x \geq 0
\end{align}
(ii)すべての確率の和が1
負の二項係数 ${}_{n+x-1}C_x= \left(-1\right)^x \cdot {}_{-n}C_x$ より、
\begin{align}
f \left(x\right)&={}_{-n}C_x \left(-1\right)^x \left(1-p\right)^xp^n\\
&={}_{-n}C_x \left[- \left(1-p\right)\right]^xp^n
\end{align}
よって、
\begin{align}
\sum_{x=0}^{\infty}f \left(x\right)&=\sum_{x=0}^{\infty}{{}_{-n}C_x \left[- \left(1-p\right)\right]^xp^n}\\
&=p^n\sum_{x=0}^{\infty}{{}_{-n}C_x \left[- \left(1-p\right)\right]^x}\\
\end{align}
一般化二項定理 $ \left(1+y\right)^a=\sum_{r=0}^{\infty}{{}_{a}C_xy^x}$ において、$a=-n,y=- \left(1-p\right)$ とすると、
\begin{align}
\sum_{x=0}^{\infty}{{}_{-n}C_x \left[- \left(1-p\right)\right]^x}&= \left\{1- \left(1-p\right)\right\}^{-n}\\
&=p^{-n}
\end{align}
したがって、
\begin{align}
\sum_{x=1}^{\infty}f \left(x\right)=p^n \cdot p^{-n}=1
\end{align}
よって、確率関数の定義を満たしているため、確率関数である。
$\blacksquare$
確率関数の導出
$n$ 回成功するまでに要した失敗回数が $x$ 回となるとき、総試行回数は、
$n+x$ 回
となる。
このとき、
最初から $n+x-1$ 回目までの間に
$n-1$ 回の成功と $x$ 回の失敗が起こり、
$n+x$ 回目で成功
すればよいので、
\begin{align}
P \left(X=x\right)&={}_{n+x-1}C_xp^{n-1} \left(1-p\right)^x \cdot p\\
&={}_{n+x-1}C_xp^n \left(1-p\right)^x
\end{align}
$\blacksquare$
【定理】幾何分布と負の二項分布の関係
【定理】
幾何分布と負の二項分布の関係
Relationship between Geometric and Negative Binomial Distribution
確率変数 \begin{gather} \boldsymbol{X}= \left\{X_1,X_2,X_3, \cdots ,X_n\right\} \end{gather} が互いに独立に幾何分布 \begin{gather} X_i \sim G \left(p\right) \end{gather} に従うとき、 確率変数の和 \begin{gather} Y=X_1+X_2+ \cdots +X_n \end{gather} は、負の二項分布 \begin{gather} Y \sim \mathrm{NB} \left(n,p\right) \end{gather} に従う。
導出
幾何分布のモーメント母関数の公式より、 \begin{align} M_{X_i} \left(\theta\right)=\frac{p}{1-e^\theta \left(1-p\right)} \end{align} モーメント母関数の性質 $M_Y \left(\theta\right)=\prod_{i=1}^{n}{M_{X_i} \left(\theta\right)}$ より、 \begin{align} M_Y \left(\theta\right)=\prod_{i=1}^{n} \left\{\frac{p}{1-e^\theta \left(1-p\right)}\right\}= \left\{\frac{p}{1-e^\theta \left(1-p\right)}\right\}^n \end{align} これは、負の二項分布のモーメント母関数にほからならない。
したがって、モーメント母関数の一意性により、確率変数 $Y$ は、負の二項分布 \begin{align} Y \sim \mathrm{NB} \left(n,p\right) \end{align} に従う。 $\blacksquare$
重要事項のまとめ
略記法
\begin{align} \mathrm{NB} \left(n,p\right) \end{align}
パラメータ
\begin{gather} n= \left\{1,2, \cdots \right\}\\ 0 \lt p \lt 1 \end{gather}
確率関数
\begin{gather} f \left(x\right)= \left\{\begin{matrix}{}_{n+x-1}C_xp^n \left(1-p\right)^x&x=0,1,2, \cdots \\0&\mathrm{other}\\\end{matrix}\right. \end{gather}
期待値
\begin{align} E \left(X\right)=\frac{n \left(1-p\right)}{p} \end{align}
分散
\begin{align} V \left(X\right)=\frac{n \left(1-p\right)}{p^2} \end{align}
確率母関数
\begin{align} G_X \left(\theta\right)= \left\{\frac{p}{1-\theta \left(1-p\right)}\right\}^n \end{align}
モーメント母関数
\begin{align} M_X \left(\theta\right)= \left\{\frac{p}{1-e^\theta \left(1-p\right)}\right\}^n \end{align}
再生性
負の二項分布には、再生性がある。
参考文献
- 小寺 平治 著. 数理統計:明解演習. 共立出版, 1986, p.55
- 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.117-119
- 竹村 彰通 著. 現代数理統計学. 創文社, 1991, p.28
- 稲垣 宣生 著. 数理統計学. 裳華房, 2003, p.34-35
- 久保川 達也 著, 新井 仁之, 小林 俊行, 斎藤 毅, 吉田 朋広 編. 現代数理統計学の基礎. 共立出版, 2017, p.36-38
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