モーメントと母関数

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【2023年3月2週】 【B000】数理統計学 【B020】確率変数と確率分布

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本稿では、モーメントと母関数についてまとめています。2次階乗モーメントを用いた分散の公式、歪度・尖度、確率母関数、モーメント母関数、特性関数、キュムラント母関数などの定義や性質の紹介が含まれます。

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積率(モーメント)

k がある正の整数のとき、確率変数 Xk 乗の期待値 E(Xk) を確率変数 Xk積率(モーメント) moment といい、 E(|X|k) k 次絶対モーメントと呼ぶ。 a をある実数として、 E[(Xa)k] a のまわりの k 次モーメントという。 特に、a=E(X) のとき、 E[{XE(X)}k] k 次の中心モーメントと呼び、 E[{XE(X)σ}k] k 次の標準化モーメントと呼ぶ。

E(|X|k) が有限の値に収束する、すなわち、 E(|X|k)< のときに k 次積率は存在するという。

また、 E[X(X1)(Xk+1)] のかたちで表されるモーメントを k 次階乗モーメントという。

ポイント

①期待値 E(X) は1次積率、分散 V(X)=E[{XE(X)}2] は期待値のまわりの2次積率と言い換えることができる。

②どのような分布でも、期待値 μ のまわりの1次積率(1次の中心積率)は0となる。 E(Xμ)=E(X)μ=μμ=0

③確率変数 X の分布がその期待値 μ について対称ならば、正の部分と負の部分が相殺されるため、奇数次の中心積率はゼロとなる。 E[(Xμ)k]=0k=1,3,5,

低次なモーメントの存在性

【命題】
低次なモーメントの存在性
Existence of Lower Moments

k 次モーメントが存在すれば、それよりも低次なモーメントも存在する、すなわち、 E(|X|k)<E(|X|j)<j<k

証明

証明

(i)離散型の場合 E(|X|j)=|x|jf(x)=|x|1|x|jf(x)+|x|>1|x|jf(x)|x|11f(x)+|x|>1|x|kf(x)P(|X|1)+E(|X|k)<

(ii)連続型の場合 E(|X|j)=|x|jf(x)dx=|x|1|x|jf(x)dx+|x|>1|x|jf(x)dx|x|11f(x)dx+|x|>1|x|kf(x)dxP(|X|1)+E(|X|k)<

これは、2次モーメント E(X2) が存在すれば、期待値 E(X) も存在し、また分散 V(X) も存在するということを意味している。

任意の点まわりの2次モーメントとしての分散

【命題】
任意の点まわりの2次モーメントとしての分散
Variance as Second Moment about Arbitrary Point

分散は、任意の実数 c まわりの2次モーメントを最小にする、すなわち、 V(X)E[(Xc)2]

証明

証明

E[(Xc)2]=E[{(Xμ)(μc)}2]=E[(Xμ)22(Xμ)(μc)+(μc)2]=E[(Xμ)2]2(μc)E(Xμ)+(μc)2=V(X)2(μc)(μμ)+(μc)2=V(X)+(μc)2V(X)

2次階乗モーメントを用いた分散の公式

【公式】
2次階乗モーメントを用いた分散の公式
Variance Formula with 2nd Factorial Moment

確率変数 X の分散が存在するとき、分散は、2次階乗モーメントを用いて V(X)=E{X(X1)}+E(X){E(X)}2 で求めることができる。

導出

導出

次の恒等式 X2=X(X1)+X において、 両辺の期待値を取ると、 E(X2)=E{X(X1)}+E(X) 分散の公式 V(X)=E(X2){E(X)}2 より、 V(X)=E{X(X1)}+E(X){E(X)}2

歪度

α3=E[{XE(X)}3]σ3 を確率変数 X の確率分布の歪度 skewness という。 歪度は確率分布の形状の非対称性の指標であり、正ならば右の裾が長く、負ならば左の裾が長い。そして、歪度の絶対値がその程度を表している。

なお、計算をする際には、 E[{XE(X)}3]=E(X3)3E(X)E(X2)+2{E(X)}3 として計算することができる。

尖度

α4=E[{XE(X)}4]σ4 を確率変数 X の確率分布の尖度 kurtosis という。 尖度は確率分布の形状の尖りの程度の指標であり、通常、正規分布の α4=3 と比較し、 α43 尖度超過係数 kurtosis coefficient of excess という。 尖度超過係数が正ならば正規分布よりも尖っており、負ならば正規分布よりも丸く鈍い形をしている。

計算には、 E[{XE(X)}4]=E(X4)4E(X)E(X3)+6{E(X)}2E(X2)3{E(X)}4 を用いることができる。

確率母関数

確率変数 X が非負の整数値のみを取る離散型確率分布に従うとき、 |θ|1 を満たす任意の実数 θ に対し、 θX の期待値 GX(θ)=E(θX)=x=0θxf(x)(|θ|1) 確率母関数 probability-generatingfunction という。

確率母関数の性質

【定理】
確率母関数の性質
Basic Properties of Probability-Generating Function

確率変数 X の確率母関数が存在するとき、
(I)X=x となる確率 P(X=x)=f(x) と確率母関数との間に、 f(x)=GX(x)(0)x! という関係が成り立つ。

(II)Xk 次階乗モーメントと確率母関数との間に、 GX(k)(1)=E[X(X1)(Xk+1)] という関係が成り立つ。

(III)確率変数 X1,X2,,Xn が互いに独立であり、 それぞれの確率母関数を GX1(θ),GX2(θ),,GXn(θ) とすると、 Y=X1+X2++Xn の確率母関数は、 GY(θ)=GX1(θ)GX2(θ)GXn(θ) で与えられる。

モーメント母関数

確率変数 X について、任意の実数 θ に対し、eθX の期待値 MX(θ)=E(eθX) 積率(モーメント)母関数 moment-generating function という。 すなわち、f(x) を確率関数、あるいは確率密度関数とすると、モーメント母関数は、 MX(θ)={x=eθxf(x)Discreteeθxf(x)dxContinuous で与えられる。 右辺が有限の値に収束する、すなわち、 E(eθX)< のときに、モーメント母関数は存在するという。

多次元確率変数のモーメント母関数

また、多次元確率変数 X={X1,X2,,Xn} のモーメント母関数は、 θ={θ1,θ2,,θn} に対し、 MX(θ)=E(eθXT)=E(eθ1X1+θ2X2++θnXn) で与えられる。

モーメント母関数の基本性質

【定理】
モーメント母関数の基本性質
Basic Properties of Moment-Generating Function

(I)モーメント母関数とモーメントの関係
モーメント母関数が存在するとき、確率変数 Xk 次モーメントとモーメント母関数との間に、 MX(k)(0)=E(Xk) という関係が成り立つ。

(II)線形変換後のモーメント母関数
確率変数 X に対し、線形変換 Y=aX+b を行うとき、変換後のモーメント母関数は、 MY(θ)=ebθMX(aθ) で与えられる。

(III)独立な確率変数の和のモーメント母関数
確率変数 X1,X2,,Xn が互いに独立であり、 それぞれのモーメント母関数を MX1(θ),MX2(θ),,MXn(θ) とすると、 Y=X1+X2++Xn のモーメント母関数は、 MY(θ)=MX1(θ)MX2(θ)MXn(θ)=i=1nMXi(θ) で与えられる。

(IV)モーメント母関数の一意性
確率変数 X,Y のモーメント母関数存在し、かつ、それらが一致すれば、X1,X2 の分布関数は同じ、すなわち、 MX(θ)=MY(θ)F(x)=G(y) が成り立つ。

特性関数

確率変数 X について、i2=1 を満たす虚数単位 i と任意の実数 t に対し、eiθX の期待値 φX(t)=E(eitX)=E[cos(tX)+isin(tX)] 特性関数 characteristic function と呼ぶ。 すなわち、f(x) を確率関数、あるいは確率密度関数とすると、特性関数は、 φX(t)={x=eitXf(x)DiscreteeitXf(x)dxContinuous で与えられる。 モーメント母関数は必ずしも存在するとは限らないが、特性関数はどのような確率変数に対しても必ず存在する。

多次元確率変数の特性関数

また、多次元確率変数 X={X1,X2,,Xn} の特性関数は、 t={t1,t2,,tn} に対し、 φX(t)=E(eitX)=E(eit1X1+it2X2++itnXn) で与えられる。

キュムラント母関数

確率変数 X のモーメント母関数が存在するとき、モーメント母関数の対数 ψX(θ)=logMX(θ) キュムラント母関数 cumulant-generating function と呼ぶ。 なお、特性関数の対数 ψX(t)=logφX(t) とする定義もある。

キュムラント

キュムラント母関数を展開すると、 ψX(θ)=k=1θkk!κk と書ける。 この係数 κkk 次キュムラントという。

キュムラント母関数の性質

【定理】
キュムラント母関数の性質
Basic Property of Characteristic Function and Cumulant-Generating Function

確率変数 Xk 次モーメントとキュムラント母関数との間に、 ψX(1)(0)=E(X)ψX(2)(0)=V(X) という関係が成り立つ。

参考文献

  • 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.80-83
  • 竹村 彰通 著. 現代数理統計学. 創文社, 1991, p.19-25
  • 東京大学教養学部統計学教室 編. 基礎統計学 1 統計学入門. 東京大学出版会, 1991, p.99-104
  • 久保川 達也 著, 新井 仁之, 小林 俊行, 斎藤 毅, 吉田 朋広 編. 現代数理統計学の基礎. 共立出版, 2017, p.19-23
  • 黒木 学 著. 数理統計学:統計的推論の基礎. 共立出版, 2020, p.72-78

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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