二項分布の期待値・分散の導出

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【2023年3月3週】 【B000】数理統計学 【B030】離散型の確率分布

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本稿では、①定義に沿った方法、②確率母関数を用いる方法、③モーメント母関数を用いる方法、④ベルヌーイ分布の和と考える方法の4通りの方法で、二項分布の期待値と分散を導出しています。実用上は②・④の方法が簡単ですが、基本事項として①の方法は押さえておきたいところです。

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【公式】二項分布の期待値・分散

【公式】
二項分布の期待値・分散
Expected Value and Variance of Binomial Distribution

二項分布 B(n,p) の期待値 E(X) と分散 V(X) は、 E(X)=npV(X)=np(1p) で与えられる。

導出法①:定義に沿った方法

導出

(i)期待値
期待値の定義式 E(X)=x=xf(x) より、 E(X)=x=0nxn!x!(nx)!px(1p)nx x=0 の項を外に出すと、 E(X)=0n!0!n!p0(1p)n+x=1nn!(x1)!(nx)!px(1p)nx=x=1nn!(x1)!(nx)!px(1p)nx この式を変形すると、 E(X)=x=1nn(n1)!(x1)!(nx)!ppx1(1p)nx=npx=1n(n1)!(x1)!(nx)!px1(1p)nx(1)=npx=1n(n1)!(x1)!{(n1)(x1)}!px1(1p)(n1)(x1)

ここで、{y=x1m=n1 と変数変換すると、 x:1nのときy:0m となるので、(1) は、 E(X)=npy=0mm!y!(my)!py(1p)my=npy=0mmCypy(1p)my 二項定理 (a+b)n=x=0nnCxaxbnx において、a=p,b=1p とすると、 y=0mmCypy(1p)my={p+(1p)}m=1 したがって、 E(X)=np

(ii)分散
2次階乗モーメントの定義式 E{X(X1)}=x=0x(x1)f(x) より、 E{X(X1)}=x=0nx(x1)n!x!(nx)!px(1p)nx x=0,x=1 の項を外に出すと、 E{X(X1)}=0+0+x=2nn!(x2)!(nx)!px(1p)nx=x=2nn!(x2)!(nx)!px(1p)nx この式を変形すると、 E{X(X1)}=x=2nn(n1)(n2)!(x2)!(nx)!p2px2(1p)nx=n(n1)p2x=2n(n2)!(x2)!(nx)!px2(1p)nx(2)=n(n1)p2x=2n(n2)!(x2)!{(n2)(x2)}!px2(1p)(n2)(x2)

ここで、{z=x2l=n2 と変数変換すると、 x:2nのときz:0l となるので、(2) は、 E{X(X1)}=n(n1)p2z=0ll!z!(lz)!pz(1p)lz=n(n1)p2z=0llCzpz(1p)lz 二項定理 (a+b)n=x=0nnCxaxbnx において、a=p,b=1p とすると、 z=0llCzpz(1p)lz={p+(1p)}l=1 したがって、 E{X(X1)}=n(n1)p2=n2p2np2 階乗モーメントを用いた分散の公式 V(X)=E{X(X1)}+E(X){E(X)}2 より、 V(X)=n2p2np2+npn2p2=npnp2=np(1p)

導出法②:確率母関数を用いる方法

導出

(i)期待値
二項分布の確率母関数の公式より、 GX(θ)=(θp+1p)n 確率母関数の1階微分を求めると、合成関数の微分法より、 GX(1)(θ)=n(θp+1p)n1ddθ(θp+1p)=np(θp+1p)n1 1次モーメントと確率母関数の関係 GX(1)(1)=E(X) より、 E(X)=np(p+1p)n1=np

(ii)分散
確率母関数の2階微分を求めると、 GX(2)(θ)=n(n1)p(θp+1p)n2ddθ(θp+1p)=n(n1)p2(θp+1p)n2 2次階乗モーメントと確率母関数の関係 GX(2)(1)=E{X(X1)} より、 E{X(X1)}=n(n1)p2(p+1p)n2=n(n1)p2=n2p2np2 分散の公式 V(X)=E{X(X1)}+E(X){E(X)}2 より、 V(X)=n2p2np2+npn2p2=npnp2=np(1p)

導出法③:モーメント母関数を用いる方法

導出

(i)期待値
二項分布のモーメント母関数の公式より、 MX(θ)=(eθp+1p)n モーメント母関数の1階微分を求めると、合成関数の微分法より、 MX(1)(θ)=n(eθp+1p)n1ddθ(eθp+1p)=npeθ(eθp+1p)n1 1次モーメントとモーメント母関数の関係 MX(1)(0)=E(X) より、 E(X)=np(p+1p)n1=np

(ii)分散
モーメント母関数の2階微分を求めると、積の微分公式より、 MX(2)(θ)=np{eθddθ(eθp+1p)n1+(eθp+1p)n1ddθeθ}=np{(n1)eθ(eθp+1p)n2ddθ(eθp+1p)+(eθp+1p)n1eθ}=np{(n1)eθ(eθp+1p)n2eθp+(eθp+1p)n1eθ}=npeθ(eθp+1p)n2{(n1)eθp+eθp+1p} 2次モーメントとモーメント母関数の関係 MX(2)(0)=E(X2) より、 E(X2)=np(p+1p)n2{(n1)p+p+1p}=np(npp+1)=n2p2np2+np 分散の公式 V(X)=E(X2){E(X)}2 より、 V(X)=n2p2np2+npn2p2=np(1p)

導出法④:ベルヌーイ分布の和と考える方法

導出

二項分布の確率変数 Y を互いに独立にベルヌーイ分布に従う確率変数 Xi (i=1,2,,n) の和と考えると、 Y=X1+X2++Xn また、ベルヌーイ分布の期待値と分散の公式より、 E(Xi)=pV(Xi)=p(1p) 期待値の性質 E(i=1nXi)=i=1nE(Xi) より、 E(Y)=E(i=1nXi)=i=1np=np 分散の性質 V(i=1nXi)=i=1nV(Xi) より、 V(Y)=V(i=1nXi)=i=1np(1p)=np(1p)

参考文献

  • 小寺 平治 著. 数理統計:明解演習. 共立出版, 1986, p.54
  • 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.102-103
  • 竹村 彰通 著. 現代数理統計学. 創文社, 1991, p.26
  • 稲垣 宣生 著. 数理統計学. 裳華房, 2003, p.30
  • 久保川 達也 著, 新井 仁之, 小林 俊行, 斎藤 毅, 吉田 朋広 編. 現代数理統計学の基礎. 共立出版, 2017, p.32
  • 黒木 学 著. 数理統計学:統計的推論の基礎. 共立出版, 2020, p.83

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大学時代に読書の面白さに気づいて以来、読書や勉強を通じて、興味をもったことや新しいことを学ぶことが生きる原動力。そんな人間が、その時々に学んだことを備忘録兼人生の軌跡として記録しているブログです。

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