本稿では、幾何分布の定義と概要についてまとめています。確率関数であることの証明、確率関数の導出、累積分布関数の導出、期待値・分散、確率母関数、モーメント母関数、無記憶性の紹介が含まれます。双子の関係にあるファーストサクセス分布についても触れています。
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幾何分布
定義・意味
成功確率が $p$ のベルヌーイ試行を繰り返すとき、 はじめて成功するまでに要した失敗回数 $X$ が従う離散型確率分布を幾何分布 geometric distribution という。
確率関数
確率関数 $f(x)$ は、 \begin{align} f \left(x\right)= \left\{\begin{matrix} \left(1-p\right)^xp&x=0,1,2, \cdots \\0&\mathrm{other}\\\end{matrix}\right. \end{align} で与えられる。
略記法
また、幾何分布は、 \begin{align} \mathrm{G} \left(p\right) \end{align} と略記されることがある。
ファーストサクセス分布
幾何分布には、本稿のように はじめて成功するまでに要した失敗回数 を確率変数 $X$ とする流儀と はじめて成功するまでに要した試行回数 を確率変数 $Y$ とする流儀の2種類があります。 後者の場合を「ファーストサクセス分布」ということがあり、$X$ と $Y$ の間には、 \begin{align} Y=X+1 \end{align} という関係があります。 ファーストサクセス分布の確率関数は、 \begin{align} f \left(x\right)= \left\{\begin{matrix} \left(1-p\right)^{y-1}p&y=1,2,3 \cdots \\0&\mathrm{other}\\\end{matrix}\right. \end{align} となります。
確率関数であることの証明
(i)すべての $x$ に関して、$f(x) \geq 0$
確率の基本性質 $0 \le p \le 1\Rightarrow0 \le 1-p$ より、
\begin{align}
f \left(x\right)= \left(1-p\right)^xp \geq 0
\end{align}
(ii)すべての確率の和が1
\begin{align}
\sum_{x=0}^{\infty}f \left(x\right)&=\sum_{x=0}^{\infty}{ \left(1-p\right)^xp}\\
&=p\sum_{x=0}^{\infty} \left(1-p\right)^x
\end{align}
等比数列の無限和の公式 $ \left|r\right| \lt 1\Rightarrow\sum_{k=0}^{\infty}r^k=\frac{1}{1-r}$ より、
\begin{align}
\sum_{x=0}^{\infty}f \left(x\right)=p \cdot \frac{1}{1- \left(1-p\right)}=p \cdot \frac{1}{p}=1
\end{align}
よって、確率関数の定義を満たしているため、確率関数である。
$\blacksquare$
確率関数の導出
はじめて成功するまでに要した失敗回数が $x$ 回となるためには、
最初から $x$ 回目まで連続して失敗し、
$x+1$ 回目で成功
すればよいので、
\begin{align}
P \left(X=x\right)= \left(1-p\right)^xp
\end{align}
$\blacksquare$
【公式】幾何分布の累積分布関数
【公式】
幾何分布の累積分布関数
Cumulative Distribution Function of Geometric Distribution
幾何分布 $\mathrm{G} \left(p\right)$ の累積分布関数は、 \begin{align} F \left(x\right)= \left\{\begin{matrix}0&x \lt 0\\1- \left(1-p\right)^{x+1}&x=0,1,2, \cdots \\\end{matrix}\right. \end{align} で与えられる。
導出
累積分布関数の定義式 $F \left(x\right)=P \left(X \le x\right)$ より、
(i)$x \lt 0$ のとき、$f \left(x\right)=0$ より、
\begin{align}
F \left(x\right)=\sum_{k=-\infty}^{x}0=0
\end{align}
(ii)$0 \le x$ のとき
\begin{align}
F \left(x\right)&=\sum_{k=0}^{x}{ \left(1-p\right)^xp}\\
&=p\sum_{k=0}^{x} \left(1-p\right)^x
\end{align}
等比数列の和の公式 $\sum_{k=0}^{n}r^k=\frac{1-r^{n+1}}{1-r}$ より、
\begin{align}
F \left(x\right)&=p \cdot \frac{1- \left(1-p\right)^{x+1}}{1- \left(1-p\right)}\\
&=p \cdot \frac{1- \left(1-p\right)^{x+1}}{p}\\
&=1- \left(1-p\right)^{x+1}
\end{align}
したがって、
\begin{align}
F \left(x\right)= \left\{\begin{matrix}0&x \lt 0\\1- \left(1-p\right)^{x+1}&x=0,1,2, \cdots \\\end{matrix}\right.
\end{align}
$\blacksquare$
重要事項のまとめ
略記法
\begin{align} \mathrm{G} \left(p\right) \end{align}
パラメータ
\begin{align} 0 \lt p \lt 1 \end{align}
確率関数
\begin{align} f \left(x\right)= \left\{\begin{matrix} \left(1-p\right)^xp&x=0,1,2, \cdots \\0&\mathrm{other}\\\end{matrix}\right. \end{align}
累積分布関数
\begin{align} F \left(x\right)= \left\{\begin{matrix}0&x \lt 0\\1- \left(1-p\right)^{x+1}&x=0,1,2, \cdots \\\end{matrix}\right. \end{align}
期待値
\begin{align} E \left(X\right)=\frac{1-p}{p} \end{align}
分散
\begin{align} V \left(X\right)=\frac{1-p}{p^2} \end{align}
確率母関数
\begin{align} G_X \left(\theta\right)=\frac{p}{1-\theta \left(1-p\right)} \end{align}
モーメント母関数
\begin{align} M_X \left(\theta\right)=\frac{p}{1-e^\theta \left(1-p\right)} \end{align}
無記憶性
幾何分布には、無記憶性がある。
参考文献
- 小寺 平治 著. 数理統計:明解演習. 共立出版, 1986, p.55
- 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.119-120
- 稲垣 宣生 著. 数理統計学. 裳華房, 2003, p.33-34
- 黒木 学 著. 数理統計学:統計的推論の基礎. 共立出版, 2020, p.84-85
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