本稿では、①変数変換の公式を用いる方法、②モーメント母関数を用いる方法の2通りの方法で、正規分布の確率変数を線形変換(標準化)した後の分布を導出しています。また、モーメント母関数を用いて正規分布の再生性を証明しています。
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【定理】正規分布の線形変換
【定理】
正規分布の線形変換
Linear Conversion of Normal Distribution
確率変数 $X$ が正規分布 \begin{align} X \sim \mathrm{N} \left(\mu,\sigma^2\right) \end{align} に従うとき、 \begin{align} Y=aX+b \end{align} と線形変換すると、 新たな確率変数 $Y$ は、正規分布 \begin{align} Y \sim \mathrm{N} \left(a\mu+b,a^2\sigma^2\right) \end{align} に従う。 特に標準化 \begin{align} Z=\frac{X-\mu}{\sigma} \end{align} の場合は、 標準正規分布 \begin{align} Z \sim \mathrm{N} \left(0,1\right) \end{align} に従う。
証明法①:変数変換の公式を用いる方法
線形変換の公式 $g \left(y\right)=f \left(\frac{y-b}{a}\right) \cdot \frac{1}{ \left|a\right|}$ より、 \begin{align} g \left(y\right)&=\frac{1}{ \left|a\right|}\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\mathrm{exp} \left\{-\frac{1}{2\sigma^2} \left(\frac{y-b}{a}-\mu\right)^2\right\}\\ &=\frac{1}{\sqrt{2\pi a^2\sigma^2}}\mathrm{exp} \left\{-\frac{ \left\{y- \left(a\mu+b\right)\right\}^2}{2a^2\sigma^2}\right\} \end{align} これは、正規分布の確率密度関数 \begin{align} f \left(x\right)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}e^{-\frac{ \left(x-\mu\right)^2}{2\sigma^2}} \end{align} において、 \begin{align} \mu\rightarrow a\mu+b \quad \sigma^2\rightarrow a^2\sigma^2 \quad x\rightarrow y \end{align} と置き換えたものとみなすことができる。 したがって、確率密度関数の一意性により、確率変数 $Y$ は、正規分布 \begin{align} Y \sim \mathrm{N} \left(a\mu+b,a^2\sigma^2\right) \end{align} に従う。 $\blacksquare$
証明法②:モーメント母関数を用いる方法
正規分布のモーメント母関数の公式より、 \begin{gather} M_X \left(\theta\right)=e^{\mu\theta+\frac{1}{2}\sigma^2\theta^2} \end{gather} モーメント母関数の性質 $M_Y \left(\theta\right)=e^{b\theta}M_X \left(a\theta\right)$ より、 \begin{align} M_Y \left(\theta\right)&=e^{b\theta} \cdot e^{a\mu\theta+\frac{1}{2}a^2\sigma^2\theta^2}\\ &=e^{ \left(a\mu+b\right)\theta+\frac{1}{2}a^2\sigma^2\theta^2} \end{align} これは、正規分布のモーメント母関数において、 \begin{align} \mu\rightarrow a\mu+b \quad \sigma^2\rightarrow a^2\sigma^2 \quad X\rightarrow Y \end{align} と置き換えたものとみなすことができる。 したがって、モーメント母関数の一意性により、確率変数 $Y$ は、正規分布 \begin{align} Y \sim \mathrm{N} \left(a\mu+b,a^2\sigma^2\right) \end{align} に従う。 $\blacksquare$
標準化の場合は、$a=\frac{1}{\sigma},b=-\frac{\mu}{\sigma}$ を代入して、 \begin{gather} a\mu+b=\frac{\mu}{\sigma}-\frac{\mu}{\sigma}=0\\ a^2\sigma^2=\frac{1}{\sigma^2} \cdot \sigma^2=1 \end{gather} よって、 \begin{align} Z \sim \mathrm{N} \left(0,1\right) \end{align} $\blacksquare$
【定理】正規分布の再生性
【定理】
正規分布の再生性
Reproductive Property of Normal Distribution
確率変数 $X,Y$ がそれぞれ独立に正規分布 \begin{align} X \sim \mathrm{N} \left(\mu_1,\sigma_1^2\right) \quad Y \sim \mathrm{N} \left(\mu_2,\sigma_2^2\right) \end{align} に従うとき、 確率変数 $X$ と $Y$ の和を \begin{align} Z=X+Y \end{align} とすると、 新たな確率変数 $Z$ は、正規分布 \begin{align} Z \sim \mathrm{N} \left(\mu_1+\mu_2,\sigma_1^2+\sigma_2^2\right) \end{align} に従う。
証明
正規分布のモーメント母関数の公式より、 \begin{gather} M_X \left(\theta\right)=e^{\mu_1\theta+\frac{1}{2}\sigma_1^2\theta^2}\\ M_Y \left(\theta\right)=e^{\mu_2\theta+\frac{1}{2}\sigma_2^2\theta^2} \end{gather} モーメント母関数の性質 $M_Z \left(\theta\right)=M_X \left(\theta\right) \cdot M_Y \left(\theta\right)$ より、 \begin{align} M_Z \left(\theta\right)&=e^{\mu_1\theta+\frac{1}{2}\sigma_1^2\theta^2} \cdot e^{\mu_2\theta+\frac{1}{2}\sigma_2^2\theta^2}\\ &=e^{ \left(\mu_1+\mu_2\right)\theta+\frac{1}{2} \left(\sigma_1^2+\sigma_2^2\right)\theta^2} \end{align} これは、正規分布のモーメント母関数 \begin{align} M_X \left(\theta\right)=e^{\mu\theta+\frac{1}{2}\sigma^2\theta^2} \end{align} において、 \begin{align} \mu\rightarrow\mu_1+\mu_2 \quad \sigma^2\rightarrow\sigma_1^2+\sigma_2^2 \quad X\rightarrow Z \end{align} と置き換えたものとみなすことができる。 したがって、モーメント母関数の一意性により、確率変数 $Z$ は、正規分布 \begin{align} Z \sim \mathrm{N} \left(\mu_1+\mu_2,\sigma_1^2+\sigma_2^2\right) \end{align} に従う。 $\blacksquare$
参考文献
- 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.128-129
- 久保川 達也 著, 新井 仁之, 小林 俊行, 斎藤 毅, 吉田 朋広 編. 現代数理統計学の基礎. 共立出版, 2017, p.42
- 黒木 学 著. 数理統計学:統計的推論の基礎. 共立出版, 2020, p.102-103
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