本稿では、①定義に沿った方法、②ベルヌーイ分布の和と考える方法の2通りの方法で、二項分布の確率母関数・モーメント母関数を導出しています。①の方法では二項定理を使います。
なお、閲覧にあたっては、以下の点にご注意ください。
- スマートフォンやタブレット端末でご覧の際、数式が見切れている場合は、横にスクロールすることができます。
【定理】二項分布の確率母関数・モーメント母関数
【定理】
二項分布の確率母関数・モーメント母関数
PGF and MGF of Binomial Distribution
二項分布 $\mathrm{B} \left(n,p\right)$ の確率母関数 $G_X \left(\theta\right)$ とモーメント母関数 $M_X \left(\theta\right)$ は、 \begin{gather} G_X \left(\theta\right)= \left(\theta p+1-p\right)^n\\ M_X \left(\theta\right)= \left(e^\theta p+1-p\right)^n \end{gather} で与えられる。
導出法①:定義に沿った方法
(I)確率母関数
確率母関数の定義式 $G_X \left(\theta\right)=\sum_{x=0}^{\infty}{\theta^x \cdot f \left(x\right)}$ より、
\begin{align}
G_X \left(\theta\right)&=\sum_{x=0}^{n}{\theta^x \cdot \ {}_{n}C_xp^x \left(1-p\right)^{n-x}}\\
&=\sum_{x=0}^{n}{{}_{n}C_x \left(\theta p\right)^x \left(1-p\right)^{1-x}}
\end{align}
二項定理 $ \left(a+b\right)^n=\sum_{x=0}^{n}{{}_{n}C_xa^xb^{n-x}}$ において、$a=\theta p,b=1-p$ とすると、
\begin{align}
G_X \left(\theta\right)= \left(\theta p+1-p\right)^n
\end{align}
$\blacksquare$
(II)モーメント母関数
モーメント母関数の定義式 $M_X \left(\theta\right)=\sum_{x=-\infty}^{\infty}{e^{\theta x} \cdot f \left(x\right)}$ より、
\begin{align}
M_X \left(\theta\right)&=\sum_{x=0}^{n}e^{\theta x} \cdot {}_{n}C_xp^x \left(1-p\right)^{n-x}\\
&=\sum_{x=0}^{n}{{}_{n}C_x \left(e^\theta p\right)^x \left(1-p\right)^{n-x}}
\end{align}
二項定理 $ \left(a+b\right)^n=\sum_{x=0}^{n}{{}_{n}C_xa^xb^{n-x}}$ において、$a=e^\theta p,b=1-p$ とすると、
\begin{align}
M_X \left(\theta\right)= \left(e^\theta p+1-p\right)^n
\end{align}
$\blacksquare$
導出法②:ベルヌーイ分布の和と考える方法
二項分布の確率変数 $Y$ を互いに独立にベルヌーイ分布に従う確率変数 $X_i\ \left(i=1,2, \cdots ,n\right)$ の和と考えると、
\begin{align}
Y=X_1+X_2+ \cdots +X_n
\end{align}
(I)確率母関数
ベルヌーイ分布の確率母関数の公式より、
\begin{align}
G_{X_i} \left(\theta\right)=\theta p+ \left(1-p\right)
\end{align}
確率母関数の性質 $G_Y \left(\theta\right)=\prod_{i=1}^{n}{G_{X_i} \left(\theta\right)}$ より、
\begin{align}
G_Y \left(\theta\right)=\prod_{i=1}^{n} \left(\theta p+1-p\right)= \left(\theta p+1-p\right)^n
\end{align}
$\blacksquare$
(II)モーメント母関数
ベルヌーイ分布のモーメント母関数の公式より、
\begin{align}
M_{X_i} \left(\theta\right)=e^\theta p+ \left(1-p\right)
\end{align}
モーメント母関数の性質 $M_Y \left(\theta\right)=\prod_{i=1}^{n}{M_{X_i} \left(\theta\right)}$ より、
\begin{align}
M_Y \left(\theta\right)=\prod_{i=1}^{n} \left(e^\theta p+1-p\right)= \left(e^\theta p+1-p\right)^n
\end{align}
$\blacksquare$
参考文献
- 小寺 平治 著. 数理統計:明解演習. 共立出版, 1986, p.54
- 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.102-103
- 竹村 彰通 著. 現代数理統計学. 創文社, 1991, p.26
- 稲垣 宣生 著. 数理統計学. 裳華房, 2003, p.30
- 久保川 達也 著, 新井 仁之, 小林 俊行, 斎藤 毅, 吉田 朋広 編. 現代数理統計学の基礎. 共立出版, 2017, p.32
- 黒木 学 著. 数理統計学:統計的推論の基礎. 共立出版, 2020, p.83
0 件のコメント:
コメントを投稿