本稿では、確率論の基本事項である事象と集合についてまとめています。事象や標本空間、和事象・積事象・余事象、排反、事象の演算規則などの定義や意味の紹介が含まれます。
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試行と事象
統計学では、母集団からデータを採取するために、同じ条件の下で繰り返し行うことのできる実験や観測を総称して試行 trial という。例えば、コインを投げて表と裏のどちらが出るかを観察することやサイコロを振ってどの目が出るかを観察することなどが試行にあたる。このとき、コインの場合は「表か裏」、サイコロの場合は「1~6の目」が出ることは知っているが、次の試行の結果がどうなるのかは予め知ることはできない。このような場合の試行のことを確率試行 stochastic trial という。
また、確率試行を行ったときに起こり得る全ての結果の集まりを全事象 total event、または標本空間 sample space といい、 \begin{gather} \Omega \end{gather} で表す。 例えば、サイコロを投げる場合、標本空間は、 \begin{gather} \Omega= \left\{1,2,3,4,5,6\right\} \end{gather} となる。
標本空間の部分集合を事象 event といい、 \begin{align} A,B,C, \cdots \end{align} のように大文字のアルファベットで表す。 ここに、集合Aが集合Bの部分集合 subsetであるとは、集合Aに含まれるすべての要素が集合Bに含まれるという包含関係があること、すなわち、 \begin{gather} a\in A\rightarrow a\in B \end{gather} をいう。 このことを \begin{gather} A\subset B \end{gather} で表す。 例えば、サイコロを投げる場合、偶数の目が出る事象は、 \begin{gather} A= \left\{2,4,6\right\} \end{gather} となる。
標本空間に含まれる要素は観測値 observed value、根元事象 elementary event、実現値 realized value、単一事象 simple event、標本点 sample point などと呼ばれ、 \begin{align} a,b,c, \cdots \end{align} のように小文字のアルファベットで表す。 これらは、 \begin{gather} \omega_i \quad i=1,2, \cdots \end{gather} と表すこともある。
ただし、実現値や観測値といった言葉は確率試行によって起こった(あるいは、起こるであろう)結果に対して用いられることがある。いっぽう、根元事象という言葉は、ただひとつの標本点から成り、それ以上分割できない事象、すなわち、確率試行によって起こりうる結果の最小単位を強調するために用いられることが多い。根元事象に対して、複数の標本点を含み、いくつかの根元事象に分解できる事象を複合事象 compound event と呼ぶ。サイコロを1回投げたとき、$ \left\{1\right\}, \left\{2\right\}$ は根源事象であるが、$ \left\{1,2\right\}$ は、複合事象である。
観測された試行の結果に対応する標本点 $\omega$ がAに属するとき、事象Aが起こったという。例えば、サイコロを振って2の目が出たとき、先の事象Aに含まれるので、「偶数の目が出るという事象が行った」ということになる。
和事象・積事象・余事象
「標本空間」の定義からわかるように。標本空問は何を目的として確率試行を実施するのかによって異なる事象を標本空間 \Omega の部分集合であると定義したので、事象Aと事象Bに対して 和事象 union of events とは、事象Aに含まれる要素と事象Bに含まれる要素をすべてあわせたものを指し、 \begin{gather} A \cup B \end{gather} で表す。 これは、 AかBの少なくともどちらかが起こる事象を意味する。
積事象 intersection of events、または、共通事象とは、事象Aと事象Bの両方に共通に含まれる要素をすべてあわせたものを指し、 \begin{gather} A \cap B \end{gather} で表す。
差事象 difference of events とは、事象Aから事象Bに含まれる要素すべてを取り除いた後に残った事象Aの要素すべてからなるものを指し、 \begin{gather} A \setminus B \end{gather} で表す。
余事象 complement of events t とは、 Aが起こらない事象を指し、 \begin{gather} A^C \end{gather} で表す。
標本空間 $\Omega$ の要素をまったく含まない事象を空事象 impossible event といい \begin{gather} \emptyset \end{gather} で表す。 これはつまり、起こり得ない事象を意味する。
また、$\Omega$ 自身も $\Omega$ の部分集合とみなす。このばあ、後者の事象を全事象 certain event, sure event と呼び、必ず起こる事象を意味する。
排反
さらに、積事象 $A \cap B$ が空事象 $\emptyset$、すなわち、事象Aと事象Bが共通の要素を持たないとき、事象Aと事象Bは互いに排反 mutually exclusive であるという。これはつまり、事象Aと事象Bは同時には起こり得ないということを意味する。なお、加算個の事象 \begin{gather} A_1,A_2, \cdots \end{gather} についても、 どの2つの事象 $A_i,A_j \left(i \neq j\right)$ に対し、 \begin{gather} A_i \cap A_j=\emptyset \end{gather} であれば、 \begin{gather} A_1,A_2, \cdots \end{gather} は互いに排反するという。
事象の演算規則
事象の演算として、次の定理が成り立つ。
【定理】
事象の演算規則
A,B,C を事象とするとき、次が成り立つ。
(1)交換法則 commutative property
\begin{gather}
A \cup B=B \cup A
\end{gather}
(2)結合法則 ssociative property
\begin{gather}
A \cup \left(B \cup C\right)= \left(A \cup B\right) \cup C \quad A \cap \left(B \cap C\right)= \left(A \cap B\right) \cap C
\end{gather}
(3)分配法則 distributive property
\begin{gather}
A \cup \left(B \cap C\right)= \left(A \cup B\right) \cap \left(A \cup C\right) \quad A \cap \left(B \cup C\right)= \left(A \cap B\right) \cup \left(A \cap C\right)
\end{gather}
(4)ド・モルガンの法則 De Morgan's laws
\begin{gather}
\left(A \cup B\right)^C=A^C \cap B^C \quad \left(A \cap B\right)^C=A^C \cup B^C
\end{gather}
(5)
\begin{gather}
\left(A^C\right)^C=A
\end{gather}
(6)
\begin{gather}
A= \left(A \cap B^C\right) \cup \left(A \cap B\right)\\
A \cup B=A \cup \left(A \cap B^C\right)=B \cup \left(A \cap B^C\right)= \left(A \cap B^C\right) \cup \left(A \cap B\right) \cup \left(A^C \cap B\right)
\end{gather}
(7)
\begin{gather}
B\subset A\Longrightarrow A \cup B=A,A \cap B=B
\end{gather}
参考文献
- 野田 一雄, 宮岡 悦良 著. 入門・演習数理統計. 共立出版, 1990, p.1-4
- 東京大学教養学部統計学教室 編. 基礎統計学 1 統計学入門. 東京大学出版会, 1991, p.67-75
- 黒木 学 著. 数理統計学:統計的推論の基礎. 共立出版, 2020, p.21-23
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